アフリカの自動車生産国と日本メーカーの動向
電気自動車に限らず、アフリカはどの国で自動車が生産され、販売されているのでしょうか。日本のメーカーの情報も含め、まとめています。
電力不足のアフリカでも生まれるEV市場、中国が販売先と製造拠点の両面でアフリカに注目
(モロッコに設置されているテスラのスーパーチャージャー、ABP撮影)
「電力供給が不安定なアフリカで、電気自動車が普及するわけがない」というのが少し前までの大方の見方でした。しかしいま、限定的にではありますが、アフリカで電気自動車が走り始めています。
この動きのもっとも大きな立役者は、気候変動対策ではなく、ガソリン価格の高騰です。アフリカの多くの国はガソリンを輸入しています。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに起こった世界的なガソリン相場上昇に加え、米国の金利引き上げがもたらした現地通貨安によって、2022年以降アフリカでのガソリン末端価格は2倍や3倍へと大幅に急騰しました。
アフリカの物流と輸送の手段はほぼ車両のみであるため、ガソリン価格の高騰はインフレに直結し、国民生活を直撃します。価格が上がるとそれだけ輸入のための外貨が必要となり、外貨準備高が減少します。政府は国民の不満を減らし国家財政を保つために、電気自動車の導入を後押しするようになりました。加えて、コロナやドル金利上昇により債務返済が厳しくなった国では、IMFが融資の条件としたガソリン補助金の廃止を行わざるを得なくなり、ガソリン以外の動力源の導入が必要となりました。
顕著な例がエチオピアです。2023年末にデフォルトし、外貨準備高が非常に逼迫している同国は、2024年に世界初となる「自家用ガソリン車の輸入全面禁止」を施行しました。表向きは気候変動対策ですが、電気自動車に切り替えることでガソリンの輸入を抑制するのが最大の目的です。エチオピア含むどの国も電力が安いわけではないですが、少なくとも自国で発電を行っているため外貨は消費しません。
車両の購入者も、アフリカの場合は自家用車より商売のために車両を使っている人や会社が多くコスト削減に敏感なため、電気自動車に着目しています。アフリカで電気自動車が普及するのに障壁となるのは、ガソリン車より高い車両価格と充電インフラ。しかし「電気バス」と「電動バイク」の場合はこれを解決できる見込みがあるため、多くのアフリカの国ではまずこのふたつの電気自動車が先に使用されるようになると思われます。
バスが電動化に向いているのは、ルートが固定されているためです。走行距離がわかっているため航続距離内での運行が可能で、充電ステーションの設置場所も特定できるため設置費用が多くかかりません。
2023年には、ケニアで豊田通商が出資するBasiGoが、民間のバス会社向けに販売した電気バスが稼働を開始しました。BasiGoは、車両購入価格を押さえるために、走行距離に応じて課金するいわば割賦販売を取り入れています。これができるのも、バスの場合は走行距離だけでなく乗客数=売上もあらかじめある程度読めるためです。
BasiGoは2023年11月にはルワンダにも進出。ルワンダは、電気自動車の導入に向けて輸入関税やVAT免除、電気代減額などのさまざまなインセンティブを取り入れ、もっとも積極的な政策をとる国です。現時点で、ケニアとルワンダあわせて119台を運行させています。
都市近郊と中心部を結ぶ公共高速輸送バス(BRT)は、決まったルートを往復するため、とくに電動化に向いています。2024年1月にはセネガルが、アフリカで初めて電気バスによるBRTを開通しました。BRTの電動化はケニアやコートジボワールでも進められています。
ケニアにおける電動バイク関連企業図(ABP作成)
アフリカの電気自動車の普及トレンドにおいて、いまもっとも盛り上がりを見せているのがケニアの電動バイク市場です。
アフリカではバイクは、個人よりも、バイクタクシーや物の配送、食品デリバリーやeコマース配送などの事業目的で使用されています。ケニアで2022年以降2.5倍程度まで上昇したガソリン価格は、ドライバーの稼ぎを減少させました。政府は不満を押さえるためにも電動バイクの国内組立への優遇を打ち出し、販売や組み立てに参入する企業が活発化しました。
ARC Rideは、ケニアで組み立てしたバイクを、ガソリンバイクと大きく変わらない価格で売り出しています。電動バイクで価格の大半を占めるバッテリーを貸し出し式とすることで値段を抑える仕組みです。バッテリーはARC Rideの所有・管理で、ライダーは充電が必要になるとスワッピング(交換)ステーションでバッテリーを交換します。同社は現在、ある程度決まったエリアでの走行をするUberのライダーを対象としているため、交換も比較的容易です。なおARC Rideには、武蔵精密工業が出資しています。
バッテリーごと電動バイクを販売する企業では、初期費用を押さえる工夫として融資を提供する企業と組んでいます。たとえばRoamは、携帯の割賦販売を行うM-Kopaと提携し、彼らの割賦販売の仕組みを使って電動バイクを販売しています。M-Kopaには住友商事が出資しています。
左の表にあるように、ケニアには他にも電動バイクメーカーが進出しています。さらに2024年9月には、トヨタ自動車がシリコンバレーに創設したToyota Venturesが出資する元テスラ従業員が立ち上げた米国Zenoが、東アフリカで電動バイク事業を行うと発表しました。
他では、ルワンダ、ウガンダ、ガーナ、ベナンで電動バイクへの投資が活発です。エチオピアでは日系の電動バイクスタートアップのDodaiが事業を行っています。ナイジェリアでは、ヤマハ発動機が出資するMAXが、配車アプリのライダー向けに電動バイクへの融資を提供しています。
乗用車についてはどうでしょうか。アフリカの多くの国ではそもそも中古車が一般的で、新車の販売台数自体が多くありません。しかしいくつかの国では、新車の購買層が存在します。乗用車の電気自動車が普及しうるのは、その前にガソリンの新車が普及している、南アフリカ、エジプト、モロッコといった国です。
エジプトにおける電気自動車組み立て計画(ABP作成)
アフリカで、国内で販売する電気自動車の組み立てにもっともギアを入れている国は、エジプトです。政府の誘致に応じて、左表にあるように、中国と欧州を中心とした多くのメーカーが、エジプトでの電気自動車の生産開始を発表しています。
中国EVメーカーは、競争が厳しい中国や、追加関税が課されるなど貿易摩擦のある欧州の次の販売市場として、アフリカを捉えています。第一汽車、東風汽車といった大手から新興電気自動車企業まで、アフリカ市場に注目しています。
ただ、まだいずれも生産には至っていない段階です。エジプトではBYDのガソリン車のシェアが高いのですが、現時点で同社は電気自動車は投入していません。この数年の為替変動と、充電設備が設置過程にあることが遅らせています。
輸入による販売よりも組み立て計画が先行しているエジプトとは逆に、輸入販売が先に増えているのが、アフリカ最大の新車市場である南アフリカです。BMW、ボルボ、フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、ジャガー、アウディ、ミニといった欧州メーカーや、中国の上海汽車、東風汽車、長城汽車、Dayun Yuehu、そしてBYDも南アフリカでは電気自動車を販売しています。
南アフリカにおける2023年の次世代自動車販売台数は、前年比65%の7,700台となりました。ただし、実はこの数値の84%はハイブリッド車で占められており、そのハイブリッド車を現地で一手に組み立て販売しているのがトヨタです。
トヨタは乗用車において、南アフリカでトップシェアの自動車メーカーです。2021年に同社がハイブリッド車の組み立てを開始すると、追ってBMWやフォード、ルノーもハイブリッド車の生産開始を発表しました。2024年になってステランティスも、電気自動車やハイブリッドの組み立てを南アフリカで開始すると発表しています。
南アフリカ、エジプトに次いで、新車が購入されている国であるモロッコでは、テスラが2021年にアフリカで初めてスーパーチャージャーを設置しました。この記事のトップ画像は、弊社がモロッコで撮影した写真です。
テスラ車両自体の販売は進んでいませんが、モロッコで人気のルノーの乗用車ブランドDaciaが電気自動車を投入し、欧州ブランドBMW、メルセデス・ベンツ、アウディの他、2023年にはBYDやGeely、KIAが電気自動車の輸入販売を開始しています。
新車を購入することができる層がアフリカのなかでは相対的に厚いこれらの国では、ガソリン新車と同じユーザーである富裕層と公的機関から順に電気自動車が購入されはじめています。Uberのようなドライバーの利益改善の必要がある企業は、融資を提供する企業と組んで電気自動車の提案を開始しています。
充電ステーションの設置はいずれの国でもまだ十分ではないですが、官民連携の形で進められています。
モロッコにはもうひとつの側面があります。電気自動車およびバッテリーの欧州への輸出拠点となる可能性です。
中国によるモロッコにおけるバッテリー材料製造計画(ABP作成)
もともとモロッコでガソリン自動車を生産し欧州市場へ輸出しているルノーとステランティスが、電気自動車の価格を下げるため、イタリアやポーランドから電気自動車工場をモロッコに移しはじめています。ステランティスはオペル、シトロエン、フィアットの電気自動車をモロッコ工場に移転しました。欧州がガソリン自動車の廃止を強めるに従って、モロッコでの電気自動車生産は本格化していくでしょう。
完成車だけではありません。中国企業を中心に、バッテリーおよびバッテリーの部材メーカーがモロッコに工場を建設する流れがきています。
フォルクスワーゲンが出資する中国の国軒高科(Gotion High-Tech)は2024年、モロッコにバッテリーの「ギガファクトリー」を作るとしてMoUを締結しました。左の表にあるように、電池材料大手BTRをはじめ、リチウムイオン電池の正極材料、負極材料などを製造する部材メーカーも続々工場投資を発表しています。
背景にあるのは、2023年4月から米国で適用となったインフレ抑制法のガイダンスです。これにより中国の鉱物や材料で作ったバッテリーを使用した電気自動車は税額控除を受けられなくなりました。ただし、米国とFTAを締結済みのモロッコからの輸出は引き続き恩恵を受けられるため、いわば米国向けに迂回輸出するために、中国企業はモロッコに目をつけています。
モロッコは、リチウムイオン電池の正極材料に用いられるコバルトの産出国でもあります。コバルトおよび電池材料大手の中国浙江華友鈷業は、モロッコで韓国LG化学と組んで正極材料工場を作るとともに、バッテリー工場を開設する計画も発表しています。
関連情報:モロッコの経済指標や事業構造、進出日本企業や事業機会について(国別情報、モロッコ)
コバルトといえば、世界最大の産地はコンゴ民主共和国です。銅とコバルトが産出される隣国ザンビアとともに、電気自動車や再生可能エネルギー市場の拡大を見込み、中国と欧米諸国の資源獲得競争がはじまっています。
この2カ国は、鉱山権益の獲得や新たな探鉱、採掘事業のオペレーションにおいて難しい点が多く、さらに内陸国です。鉱山から港までの鉄道や道路を整備しなければ効率的に輸出ができないため、タンザニアを通じたインド洋ルートの構築を目指しタンザン鉄道などを整備する中国と、アンゴラのロビト港からの大西洋ルートで輸出しようと鉄道や道路を整備したい米国が、準備を進めています。2024年11月にバイデン大統領が初のアフリカ訪問としてアンゴラに来たのはこのためです。
アフリカの外に鉱物を輸出するばかりでなく、コンゴ民やザンビアにバッテリー工場を作ろうという動きもあります。米国が後押しをしていましたが、トランプ政権がどれだけ熱心に取り組むかは不明です。
コバルトは、モロッコでも採掘できます。生産量は世界12位ですが、上記の2カ国に比べると採掘や調達が容易なため、たとえばBMWは2020年、ルノーは2022年、モロッコの鉱山会社とコバルトの調達に関してMoUを締結しました。
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