エジプト

地政学的に重要な大国。人口1億人を抱える工業国であるため現地で製造し国内外に販売することが可能。国有企業や公共事業との協業や納入にも機会

エジプト

経済・ビジネス指標

正式名称
エジプト・アラブ共和国
人口
1億1,454万人(2023年、世銀)
アフリカ3位
宗教
イスラム教、キリスト教(コプト派)(外務省)
使用言語
アラビア語、英語(外務省)
GDP
3,800億ドル(2024年予測値、IMF、名目ベース)
アフリカ2位
GDP成長率(経済成長率)
2.7%(2024年予測値、IMF、実質ベース)
アフリカ40位
一人当たりGDP
3,542ドル(2024年予測値、IMF、名目ベース)
アフリカ15位
GDP構成比
農業11.7%、工業34.3%、サービス54.0%(2017年予測値、CIA)
消費者物価上昇率
33.3%(2024年予測値、IMF、年平均)
政府債務残高GDP比率
90.9%(2024年予測値、IMF、年平均)
輸出額上位3品目
石油ガス(18%)、窒素肥料(6%)、精製石油(5%)(2022年、OEC)
輸出額上位3カ国
トルコ(8%)、イタリア(6%)、米国(6%)(2022年、OEC)
輸入額上位3品目
精製石油(7%)、小麦(5%)、原油(4%)(2022年、OEC)
輸入額上位3カ国
中国(17%)、米国(7%)、サウジアラビア(7%)(2022年、OEC)
直接投資額(フロー)
98.4億ドル(2023年、UNCTAD)
工業競争力指数
世界68位(2021年、UNIDO)
都市人口・都市人口比率
4,404万人・42.8%(2020年予測値、国連)
アフリカ2位
中位年齢(人口の中央の年齢)
24歳(2023年、国連)
中間層比率※
73.8%(2019年、アフリカビジネスパートナーズ)
ジニ係数
31.5(2017年、世銀)
アフリカ3位
現地日系企業数※
60社(2024年、アフリカビジネスパートナーズ)
アフリカ4位
加盟経済共同体
COMESA(東・南アフリカ市場共同体)
CEN-SAD(サヘル・サハラ諸国国家共同体)
Doing Business ランキング
世界114位、アフリカ15位(2020年、世銀)
腐敗指数
世界130位、アフリカ27位(2022年、世銀)
デモクラシー指数
世界127位、アフリカ32位(2024年、EIU)
リスク指数
カントリーリスクC、ビジネス環境B(2022年、coface)
携帯電話普及率
93%(2022年、ITU)
インターネット利用率
72%(2022年、ITU)
銀行口座普及率
26%(2021年、世銀)
モバイルマネー普及率
3%(2021年、世銀)
次回の大統領選挙年
2030年

※「中間層比率」はこちら、「現地日系企業数」はこちらにアフリカ各国のデータと算出根拠が説明されています。

経済構造と事業環境

地政学的に重要性が高い中東の兄弟国

欧州と中東とアジアを結ぶ交接点に位置し、政治的、経済的、また物流面でも重要性が高いエジプトは、常に欧米諸国やロシア、中国、湾岸・アラブ諸国といった大国との協調と交渉のなかで生存することが求められてきた。サウジアラビア、UAEなど湾岸諸国との関係は政治的・経済的に深く、人の行き来も多い。国内の政治や経済が不安定となったときには、これら「兄弟国」やエジプトの安定を求める諸外国が影に日向に支援するため、表に現れない足腰の強さを持つ。

石油や天然ガス資源を持ち、1億人の人口を抱える。GDPは南アフリカとナイジェリアに次ぐアフリカ第3位である。

政府と軍が強い権威主義国家

強権的な政治が行われており、アラブの春を経てさらに政権と軍の権力が定着した。多くの主力事業が政府と軍が所有する国有企業となっており、公共事業が多い。地政学的に重要な地域であるからこそ強い交渉力を持ち、大国主義、汎エジプト主義、イスラム主義が標榜され、排他的な面がある。外資投資においてもエジプト資本が必要な事業や、政府との関係構築が必要な事業が残る。貿易上も保護的な政策により輸入を禁じる品目も多く、外資による輸出販売に規制がある。ただし、製造業や輸出産業といった政府が外資投資を求める産業については協力的な姿勢がとられる。

インフラ整備と工業化が進む

一方で、強権的な政治であるからこそ大型の公共インフラ投資が早く進む。工業団地や新都市、道路の建設や、石油・天然ガス、また気候変動対策を背景とする再生可能エネルギーやグリーン水素・アンモニアへの投資が矢継ぎ早に行われている。アフリカ大陸では南アフリカに続く工業国で、石油化学や鉄鋼、肥料などの重化学工業が存在し、加工貿易による製品が欧州や中東へ輸出されている。縫製やワイヤーハーネスなどの輸出軽工業もさかんで外貨収入を支える。食品や日用品、家電や医薬品などの内需向け製品は多くが国内で製造され、1億人を超える人口を賄っている。工場労働者の賃金は120~200ドル程度と安く、電気やガソリンも補助金により安価。大企業のみならず町工場や中小企業が無数に存在し、工業化を支えている。

エジプトは、東・南部アフリカの国々19カ国が加盟する経済同盟COMESA (東・南アフリカ市場共同体。南アフリカは加盟国でない)に加盟しており、地域で一番の工業国であるエジプトで製造された製品がアフリカの加盟国に免税で輸出されている。

現地の代表的な企業

国有企業は建設、不動産、鉄鋼、化学・肥料、物流、金融・保険、ホテルなどあらゆる産業領域に存在している。スエズ運河の物流は国有企業Suez Canal Authorityが管理する。民間企業においても、公共インフラ事業の需要が多いため、Orascomなどの建設会社、Ezz Steel Companyなどの鉄鋼、Elsewedy Electricなどの送配電機器に大企業が複数存在している。日立製作所がABBのパワーグリッド部門を買収して設立したHitachi energyも大手の1社。医薬品は外資が多く進出しており、GSK、Pfizer、Novartis、Merck、Bayer、Sanofi、AstraZenecaなどが工場を置いている。

家電メーカーではRaya Holdingや日本企業と縁が深いElaraby、食品ではEdita Food IndustriesやArabian Food Industries Company、Juhayana Food Industriesが大手となる。流通小売では、UAEのMajid Al Futtaim Egyptがフランチャイジーとして運営するCarrefourや、サウジアラビア資本のAl Othaim、UAE資本のSpinneysが存在する。

関連記事:エジプトに関するビジネスニュース(アフリカのビジネスニュース

日本企業の事例

日立製作所は2018年にABBのパワーグリッド部門を買収した。ABBはアフリカにおいてとくにエジプトで強く、新会社Hitachi Energyが公共事業を含めた事業基盤を引き継いでいる。住友電工や矢崎総業はワイヤーハーネスを製造して欧州の自動車工場に輸出し、YKKはエジプトの輸出縫製工場にファスナーを納めている。

内需向けには、東芝、シャープ、ソニー、セイコー、日立製作所が前述のElarabyと提携して、液晶テレビや白物家電の製造や販売を行っている。ヘルスケア領域では、大塚製薬は70年代から輸液や処方薬を製造しており、2022年には輸出を拡大するとともに健康飲料やサプリメントの製造も開始すると発表した。武田薬品工業はエジプト政府のがん治療向上に協力する。エムスリーはエジプトの医薬品配送スタートアップに投資している。ユニ・チャームはおむつと生理用品を製造し、エジプト工場からCOMESAを使って他のアフリカに輸出している。日本たばこ産業は現地のタバコ会社を買収して製造販売を行う。中古車の輸入を原則禁止しているエジプトでは新車の販売割合が高く、トヨタ自動車、いすゞ自動車、スズキ、日産自動車が組み立て生産を行っている。

日本はエジプトから石油や天然ガスを輸入している。果物や果汁の輸入元でもある。

エジプトに進出しているすべての日本企業については、「アフリカビジネスに関わる日本企業リスト」で紹介しています。

エジプトで売られる東芝やシャープの液晶テレビや白物家電
エジプトで売られる東芝やシャープの液晶テレビや白物家電(ABP撮影)

関連記事:エジプトにおける日本企業の動き(今月のアフリカにおける日本企業の動き

エジプトの事業機会

インフラ建設や発電、医療といった公共事業に関わるビジネスチャンスが存在する。とく日本企業にとっては、これら公共事業に関わる国有企業や公共事業を受注した民間企業への機械や機器、原材料の販売が機会となる。再生可能エネルギーや次世代エネルギー、電気自動車、廃棄物処理といった気候変動や環境関連事業は、近年政府が力を入れている領域である。

1億人の人口を対象とする消費財ビジネスにもチャンスがある。安価なコストを用いて現地で製造される製品と競争するには、現地製造が欠かせない。工業団地は比較的整っており、現地企業との合弁などを用いながら工場を設立することが可能である。買収による製造業での参入も候補となるだろう。エジプト国内での販売のみならず、ケニアやエチオピア、タンザニアといったCOMESA加盟国や、ナイジェリアやガーナといった西アフリカ、チュニジアやモロッコといった北アフリカへの輸出拠点としてエジプトを位置づけることも可能である。地理的に近い欧州に向けて、軽工業品や加工貿易の輸出の拠点としてエジプトで製造を行うこともできる。

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