ケニア

日本企業にとっての「アフリカのゲートウェイ」。東アフリカの経済中心国で外資に寛容。近代化の過程にあり、満たされていない需要が多く存在

ケニア

経済・ビジネス指標

正式名称
ケニア共和国
人口
5,403万人(2022年、世銀)
アフリカ7位
宗教
伝統宗教、キリスト教、イスラム教(外務省)
使用言語
スワヒリ語、英語(外務省)
GDP
1,150億ドル(2024年予測値、IMF)
アフリカ7位
GDP成長率(経済成長率)
5.3%(2024年予測値、IMF)
一人当たりGDP
2,194ドル(2024年予測値、IMF、名目ベース)
アフリカ23位
GDP構成比
農業34.5%、工業17.8%、サービス47.5%(2017年予測値、CIA)
消費者物価上昇率
6.6%(2024年予測値、IMF、年平均)
政府債務残高GDP比率
68.3%(2024年予測値、IMF、年平均)
輸出額上位3品目
紅茶(19%)、切り花(9%)、コーヒー(5%)(2022年、OEC)
輸出額上位3カ国
米国(10%)、ウガンダ(9%)、パキスタン(7%)(2022年、OEC)
輸入額上位3品目
精製石油(21%)、パーム油(5%)、小麦(2%)(2022年、OEC)
輸入額上位3カ国
中国(26%)、UAE(14%)、インド(11%)(2022年、OEC)
直接投資額(フロー)
7.6億ドル(2022年、UNCTAD)
工業競争力指数
世界108位(2021年、UNIDO)
都市人口・都市人口比率
1,498万人・28.0%(2020年予測値、国連)
アフリカ12位
中位年齢(人口の中央の年齢)
19歳(2022年、国連)
現地日系企業数
64社(2019年、アフリカビジネスパートナーズ)
加盟経済共同体
COMESA(東・南アフリカ市場共同体)
EAC(東アフリカ共同体)
CEN-SAD(サヘル・サハラ諸国国家共同体)
IGAD(政府間開発機構)
中間層比率
73%(2015年、アフリカビジネスパートナーズ)
ジニ係数
40.8(2015年、世銀)
Doing Business ランキング
世界56位、アフリカ4位(2020年、世銀)
腐敗指数
世界123位、アフリカ25位(2022年、世銀)
デモクラシー指数
世界92位、アフリカ15位(2024年、EIU)
リスク指数
カントリーリスクB、ビジネス環境A4(2022年、coface)
携帯電話普及率
122%(2022年、ITU)
インターネット利用率
41%(2022年、ITU)
銀行口座普及率
51%(2021年、世銀)
モバイルマネー普及率
69%(2021年、世銀)
次回の大統領選挙年
2027年

経済構造と事業環境

開かれた経済

東アフリカ最大の経済国。主要産業は農業で、紅茶やコーヒー、花卉、野菜・果物といった農産物の輸出と、モンバサ港を起点とした交易を経済の基盤とする。資源がなく人口規模が大きいわけでもないが、近隣の東アフリカ共同体諸国を含む諸外国との関係を保つことで投資を呼び込んできた。開かれた国であり、外資にとって事業がやりやすい環境にある。ビジネスのしやすさランキングではアフリカ4位で、GAFAや大手外資企業が東アフリカの拠点を置く。日本でも良く知られるモバイルマネーM-Pesa(エムペサ)の普及や、スタートアップ数の増加に見るように、進取の気質に富み、商売を重んじ、利があれば新しい・違うものも受け入れる文化がある。英語能力も高い。

都市消費生活の普及

人口の5割が農業に従事する農業国であるものの、首都ナイロビのみならず近郊や地方中核都市にも都市文化は広がりつつある。道路、鉄道、港湾、電力といったインフラは、南アフリカの水準には至らないがナイジェリアほど未成熟ではなく、都市型消費ビジネスの基盤となっている。小売流通額の半分はまだパパママショップのような伝統的小売が占めているが、スーパーマーケットは地方にも展開をしている。老若男女が携帯を使い、15歳以上人口の7割がモバイルマネーを使用している。

一人あたりGDPは2,000ドルを超えインドと同程度。所得格差を示すジニ係数は米国や中国と同水準で、アフリカのなかでは貧富の差が小さく、貧困層と富裕層の暮らしぶりの間にも類似性がある。月収2万円~8万円程度の中間層では、家にテレビと冷蔵庫と電子レンジがあり、スーパーやファストフードにも行き、スマホでSNSを見てときにEコマースも使う生活を送っている。

製造業の近代化・規模化を妨げる壁

製造業は内需向けの食品、日用品を製造する消費地立地型製造業で構成されており、化学や製鉄といった重工業は存在せず、輸出製造業も縫製工場等を除いて少ない。アフリカのなかでは保護的な貿易政策が少なく輸入が容易なこともあり、基礎素材は国外から輸入されている。

富裕層・資本家が農場を占有しそれを富に変えてきた経緯から、金融機関の融資含め投資は不動産に向かう傾向があり、製造業への投資は不足している。資金流動性の不足の他、原料のみならず完成品においても輸入品が流入していることや、製造業は家族経営が多く外部資本を受け入れないため買収・統合が進まないことも、製造業の近代化・規模化が進まず工業化を阻害する要因となっている。規模化が進まないと素材の国内製造が進まず、また製造業に資機材を納入する企業にとってはオーダーの規模が拡大しない。

現地の代表的な企業

製造業は消費地立地型製造業で構成されており、内需向けの食品、日用品を製造しており、化学や製鉄といった重工業は存在せず、輸出製造業も縫製工場等を除いて少ない。アフリカのなかでは保護的な貿易政策が少なく輸入が容易なこともあり基礎素材は国外から輸入されている。富裕層・資本家は農場を占有しそれを富に変えてきた経緯から、金融機関の融資含め投資は不動産に向かう傾向があり、製造業への投資は不足している。こういった資金流動性の不足の他、完成品においても輸入品が流入していることや、製造業は家族経営が多く外部資本を受け入れないため買収・統合が進まないことも、近代化・規模化が進まず工業化を阻害する要因となっている。

モバイルマネーM-Pesaを2007年に開始した企業として知られる通信会社Safaricomは、市場シェア65%、ナイロビ証券取引所の時価総額の約半分を占めるケニアの代表的な企業である。輸出を支える農作物は、たとえば欧州向けの野菜の輸出では、Vegpro Kenya、AAA Growersといった大規模商業農家が存在する。外資もユニリーバは紅茶畑を、デルモンテはパイナップル畑を保有している。食品や日用品メーカー、農業、小売流通、代理店業務では、1900年代に移住しすでに3世代目となるインド系の家族経営企業が多い。メイズ(とうもろこし粉)のPembeや食料油のBidco、日用品のHaco Industriesなどが該当する。

複数事業を抱える財閥は存在するものの、他のアフリカと比べると特定企業による寡占度は低い。東アフリカ共同体加盟国間では人の行き来や免税での輸出が可能なため、ケニアからウガンダ、タンザニア、ルワンダ、コンゴ民、南スーダンといった国々を統括している企業は多い。流通小売における4大スーパーは、Naivas、Quickmart、UAEのMajid Al Futtaimがフランチャイジーとして運営するCarrefour、Chandaranaとなる。ケニアの現地企業については、「アフリカ業界地図:ケニアの農業ビジネス、化学工業、機械・機器販売の概要」および「アフリカ業界地図:ケニアの農産物バリューチェーンの概要」にも多数掲載しているので参考とされたい。

関連記事:ケニアに関するビジネスニュース(アフリカのビジネスニュー

日本企業の事例

日本にとってケニアは「アフリカのゲートウェイ」であり、ケニアを最初の検討国とする企業が多い。個人でケニアにやって来てスタートアップや中小企業を立ち上げる日本人も多くいるのがケニアの特徴である。ケニアは「アフリカビジネスに関わる日本企業リスト」の2019年版から最新の2024年版で大幅に進出企業数を増やした(近日公開)。この流れはまだ続くと思われる。

ケニアで生産・販売される自動車のトップシェアはいすゞ自動車である。商用車顧客は国内組み立ての車両を好んで乗っている。トヨタ、日野、日産も国内で組み立て生産しており、本田技研工業はバイクの組み立てを行っている。関西ペイントは2017年に東アフリカ一帯で事業を行うSadolin Groupを買収し、ケニア市場に進出した。双日は2023年、食用油メーカーKapa Oil Refineryと合弁を設立し、インスタントヌードルの製造販売を開始した。クボタ、キッコーマン、ロート製薬、ユニ・チャームといった海外売上販売比率が高い日本企業はすでに輸入により販売を行っている。

ケニアは知る人ぞ知る再生可能エネルギー先進国で、地熱発電の発電容量が約半分を占める。地熱発電用タービン世界大手の東芝エネルギーシステムズ、富士電機、三菱重工業の3社はいずれもケニアの地熱発電向けに納入経験がある。

バラはケニアの特産品であり、日本にも輸出されている。日本市場に出回る輸入バラ総額の半分はケニアのバラだとされる。ビクトリア湖でとれる淡水魚ナイルパーチは日本に輸出され、鮮魚として、または白身魚フライとして販売されている。

関連記事:ケニアにおける日本企業の動き(今月のアフリカにおける日本企業の動き

ケニアの事業機会

ケニアは比較的現地法人も設立しやすく、外国企業が受け入れられやすいため、アフリカ進出のファーストステップとして向いた国といえる。製造業も消費ビジネスも近代化の過程にあるため、企業にも消費者にも需給のアンマッチがあちこちにある。企業は生産性を上げ事業継続性を担保する機械や資機材を求めており、消費者はまだ消費財の評価軸をもっていない。つまり、安い輸入品があふれる前に、企業や消費者の需要を顕在化させながら機械や資機材、商品を販売するチャンスがある。ただし中小企業が多いため支払いにはキャップがあり、消費財は伝統的小売などを用いた流通と販促が必要となるなど、販売には工夫が求められる。

ケニアはスタートアップの調達額でもアフリカトップクラスの国であるとともに、小口融資を含む金融や小売流通、農業領域で新しいビジネスモデルが生まれる孵卵器ともなっている。そういったスタートアップに投資するのも、また日本の大企業が新規事業の実験場として、自ら新しいビジネスモデルや社内スタートアップを開始するのにも向いた国だと言える。複数の日本企業はそのような事業にすでにトライしている。

ケニアへ進出する方法

法人設立

ケニアに進出するにあたっての法人形態は現地法人と支店の2種類がある。特定業種*を除いて、外資の進出規制や株式保有比率の規制はなく、日本企業100%出資による法人設立が可能。現地法人の場合の取締役数は法的には1人でも可能だが慣習的には2人以上で、設立時にはケニアID保有者が必要となる。支店の場合はケニアIDを保有する「代表者」を置く必要がある。資本金額の規定はなく、慣習的には10万ケニアシリング、1株100ケニアシリングを最低額とする。

法人設立のプロセスに大きな障壁はなく、正しいステップを踏めば外国法人の設立は1~2カ月で完了するが、明文化されていない慣習的なルールや相互に矛盾するプロセスが存在するため、対策が必要である。

営業を行うカウンティで営業許可を取得し、毎年更新する必要がある。

外資の金融機関としては、CitibankやStandard Charteredがケニアで営業を行っている。日系の金融機関は進出していないが、アフリカ各国に支店をもつStandard BankやEcobankが営業を行っているほか、現地の金融機関にも比較的よい銀行が多い。

*金融、保険、ICT産業、航空、海運、建設、鉱業、警備およびエンジニアリングにおいては、外資の進出および出資比率に規制がある

税制

法人税は、現地法人の場合は30%、支店の場合は37.5%。日本の消費税にあたるVAT(付加価値税)は2024年現在16%で、年間売上500万ケニアシリング以上の企業に納税義務が生じる。ほかに品目に応じてExcise Duty(物品税)が課税される。

所得税は、年収38万8,001ケニアシリングから600万ケニアシリングの場合で30%、960万1ケニアシリング以上が35%(最高税率)の累進課税となる。ほかに事業者は雇用にあたって各種社会保険(健康保険、年金保険、住宅供給税)や労働者訓練税を負担するが、金額としては大きなものではない。なお、日本とケニアの間に二重課税防止協定は締結されていない。

労働許可・雇用

外国人がケニアで労働を行うためにはWork permit(労働許可)の取得が義務付けられている。駐在員の多くはクラスDとよばれる雇用ビザを取得しており、2年ごとに更新し2年で40万ケニアシリングの支払いが必要となる。労働許可の取得には時間がかかることが多いため、早く取得できる代わりに3カ月に限って労働が許可される(2回まで更新可能)スペシャルパスという短期労働許可が存在している。なお、労働許可の支払い金額を変更し倍以上に増額することが検討されている。手続きはケニアの移民局で行う。

外資が設立した法人にケニア人を雇用することは法的には義務ではない。雇用法に関しては日本と大きく変わらず、解雇、残業代の割増支払い、法定休暇などの労働者の権利が定められている。最低賃金は業種とエリアによって決められており、たとえばナイロビで働く雇用ドライバーの最低賃金は20,517.8ケニアシリングで、受付は23,413.5ケニアシリング。大学新卒者の給与相場は7万ケニアシリング~15万ケニアシリング程度となる。経験のあるマネージャー層や現地代表のポジションになると人材が不足しているため想定以上の給与額が必要となる。

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