アフリカ自動車産業の現在地:構造変化と日本が直面する競争

スズキの躍進と追う中国メーカー。トランプ関税により輸出先は米国から欧州・アフリカにシフト

アフリカ自動車産業の現在地:構造変化と日本が直面する競争

(南アフリカの幹線道路を走る車、ABP撮影)

アフリカではいま、自動車産業に大きな変化がやってきています。あたらしい自動車生産国の台頭やトランプ関税による輸出先の変化が起こり、販売台数のシェアも入れ替わりつつあります。スズキが大きく躍進しましたが、後ろから中国メーカーが追っています。ハイブリッド車や電気自動車の普及も現実味を帯びてきました。背景には消費者が自動車に求める価値観のシフトがありそうです。アフリカで高い評判を構築してきた日本の自動車メーカーも、これまでとは違う競争に直面しています。

この記事は、アフリカにおける自動車の生産・販売の基礎的な状況についてまとめた「アフリカの自動車生産国と日本メーカーの動向」の続編です。前提となる情報として、ご一読ください。

アフリカ自動車生産国の勢力図再編

モロッコ躍進、南アフリカは米国向け輸出壊滅も首位を死守

アフリカの2大自動車生産国は、南アフリカモロッコである。南アフリカは75年前に自動車工場を開設しており、トヨタ自動車の生産開始も1962年と古い。欧州への輸出拠点からはじまり、国内への販売も増やしてきた。長年、南アフリカはアフリカ最大の自動車生産国だった。

いま同じ道のりをたどって、猛追しているのがモロッコだ。モロッコは、2012年にルノー、2019年にステランティスが工場を開設したばかりの新しい自動車生産国である。この2社のみが、欧州向け乗用車の輸出のために生産している。これまで欧州車が作られていた地域の有事や人件費上昇を背景に、「欧州の工場」として生産台数を増やしてきた。欧州のベストセラー車であるルノーのSanderoはモロッコ工場でのみで作られており、同社の全生産台数のうち17%はモロッコが占める。

成長著しいモロッコと停滞気味の南アフリカの推移から、2025年にはモロッコが生産台数で南アフリカを抜くとみられていた。しかしふたを開けると、モロッコは欧州の需要停滞とステランティスの生産再編の影響で10%の減少の50万2,000台に留まり、一方の南アフリカは、61万6,000台と前年比3%増を確保してトップの座を維持するという結果となった。

アフリカ主要3カ国の自動車生産台数推移(千台)

南アフリカの予想外の健闘は、トランプ関税による米国向け輸出の落ち込みを、アフリカ向けおよび欧州向け輸出がカバーしたからである。

アフリカ向け輸出は、南部アフリカ向けを中心に前年比36%と大きく増え、このほとんどがいすゞや日産、トヨタといった日本メーカーによる輸出だった。南アフリカからの輸出台数の8割を占める欧州向けでは、フォードのレンジャーやトヨタハイラックスといった街乗りもされる小型商用車が好調で、もともと1割に満たない米国向けの前年比74%という大きな減少を補った。

生産向けが「欧州向け乗用車」に限定されているモロッコに対し、7つのメーカーが様々な車種を、国内含め広い地域に販売している南アフリカの基盤の強さが勝った形だ。南アフリカでは輸出先の米国から他地域へのシフトが今年も進むだろう。

ただし、2026年からはこの生産7メーカーの顔ぶれが変わる。日産自動車が南アフリカ工場を中国Chery(奇瑞汽車)に売却するためだ。後述するように、中国メーカーの台頭は南アフリカの自動車産業に大きな地殻変動を起こしている。モロッコでは、ステランティスがこれまで20万台だった生産可能台数を倍以上の54万台まで引き上げる投資を行っているため、2026年の生産台数は増えるはずだ。首位が入れ替わる可能性がある。

アフリカ第三の自動車生産国であるエジプトも、2025年は前年比65%増と大きく生産台数を増やした。もっともこれは、この数年の外貨問題が解決したことで部品の輸入が再開され、数年前の水準まで戻したという側面が大きい。エジプトの新車生産はほぼすべて国内需要向けなので、消費者の買い控えが解消されたことも生産台数を増やした。

南アフリカの生産からは撤退する日産自動車も、エジプトでは長年生産台数および販売台数とも首位を維持しており、2025年は生産台数を2万台近くまで回復させた。さらに新たに投資して年間4万台まで増やすと発表している。

アフリカの自動車生産台数は10カ国で127万台

南アフリカ、モロッコ、エジプトに次いでアフリカで自動車生産が行われている国は、アルジェリア、ケニア、ナイジェリア、チュニジア、ガーナ、エチオピア、ルワンダで、アフリカで自動車を生産しているのはこの10カ国となる。なお、いずれの国でもCKD(コンプリートノックダウン)またはSKD(セミノックダウン)の組み立て生産である。

10カ国の2025年の生産台数を足し合わせると、計127万台となる。モロッコの生産台数減少をエジプトとケニアの増加が補い、全体としては前年比ほぼ同じ台数に着地した。

アフリカの自動車生産国の生産メーカーと年間生産台数(2025年)

*OEM含む
*いずれの国もCKDまたはSKDの組み立て生産
*下線は中国メーカー

ケニア景気回復に伴い、生産台数が増えた。2025年は1万3,700台が生産され、このうち、小型トラックや公共交通用車両を生産するいすゞ自動車が6,500台と約半分を占め首位だった。昨年、ケニア生産開始50周年を迎えたいすゞは、トヨタも抑えて長年トップの生産台数を維持している。

アルジェリアは、かつては新車販売台数が年間60万台に達したこともあり、トヨタ、スズキ、日産が輸出するアフリカ第二位の自動車市場だった。しかし2017年に輸入メーカーへ生産を義務付ける規制が導入され、国内で生産しなければ輸入もできなくなった。生産を開始した企業も部品の国内調達義務を満たすことが難しく、現在完成車の生産ができているのはステランティス/フィアットのみである。ルノーやBYD、Chery(奇瑞汽車)やGeely(吉利汽車)が準備段階に留っている。

2019年に国内生産を優遇する自動車政策を発表し、新たな自動車生産国に加わったガーナでは、トヨタ、スズキ、ホンダ、日産、フォルクスワーゲン、起亜、現代が生産を開始した。しかし、新車優遇のために規制した10年の中古車輸入年限はなし崩しとなっており、金利の高さも背景に新車の国内需要が伸びず、現在のところ年間2,000台程度の生産台数に留まっている。

アフリカ自動車シェアの変動と市場規模

2位に躍り出たスズキの急成長と追う中国メーカー

南アフリカの2025年は自動車販売台数も好調だった。金利とインフレ率が安定したため、コロナ以降買い控えていた消費者の需要が戻った。乗用車の販売台数は前年比20%増加し、小型商用車も含むトヨタ自動車の販売台数は25%増加した。

トヨタは南アフリカの販売台数で、46年間連続してトップだ。2位はフォルクスワーゲンの指定席だったが、2025年はとうとうスズキが逆転した。コロナ、ウクライナと、インフレと金利高、そしてガソリン価格の高騰をもたらすような有事が起こるたび、車体価格が安く燃費の良いスズキへの人気が集まり、じりじりと上位に登ってきていたのだ。人気の車種はスイフトやフロンクスで、いずれもインド工場で生産されているため価格は手頃だ。なぜか消費者は「スズキはトヨタが作っている」と誤認しており、トヨタへの根強い信頼が南アフリカでは新興メーカーだったスズキの普及を後押しした。

南アフリカのスズキ車とフォルクスワーゲン

南アフリカ市場の販売台数でフォルクスワーゲン(後ろ)を抜いたスズキ。映っているのはインドで生産したCelerio(ABP撮影)

スズキを2位に押し上げた背景には、自動車に対して信頼や耐久性、ステイタスを求めていた南アフリカの消費者が、より実用的でコスパのよい車を求めるという、自動車に対する価値認識が変化したこともある。スズキをはじめとする輸入車の伸びは、国内で生産されているトヨタ、いすゞや欧州車といった「嵩の高いクルマ」よりも高い、35%の伸びとなった。

しかし、このスズキが開けた窓は、スズキのライバルも呼び寄せている。2025年のメーカー別シェアをみると、6位にBWM(長城汽車)、8位にChery(奇瑞汽車)、10位にマヒンドラが入る。中国やインドからの輸入車だ。さらに10位以下の「その他」が21%伸び、トヨタを除くどの上位メーカーの伸び率よりも高かった。固定したシェアを保ってきた上位メーカーが、大手・中小を含む有象無象の中国を中心とした輸入車メーカーからシェアを奪われつつあるのだ。

スズキのスイフトが21万ランド(約200万円)で販売されるなか、中国Cheryのバジェットカーの価格は28万ランド(約260万円)まで迫っている。Cheryは前述のように日産自動車から生産設備の売却を受けたため、工場や従業員を引き継ぎ、今年から現地生産を開始する。

さらに、南アフリカでは2025年、ハイブリッドカーや電気自動車(EV)の参入が相次いだ。過去3年間で10社の中国電気自動車メーカーが南アフリカで販売を開始している。

ステイタスカーからバジェットカーへときた流れは、ハイブリッド/電気自動車に向かうのか。これについては別稿で解説する。

南アフリカで販売されているCheryのコンパクトカーTiggo4(ABP撮影)

モロッコ市場の立ち上がりと中国電気自動車メーカーの参入

大きく市場規模を伸ばしたのがモロッコだ。これまでは輸出のための生産台数は伸びても、国内市場の動きは鈍かった。モロッコを訪れれば、年季の入った古い車が多いことに気づく。それが2025年には前年比30%と大きく増加し、はじめて販売台数は20万台に乗った。好調なマクロ経済と、2030年のワールドカップ共催に向けた活発な投資が背景にある。販売台数の伸びは買い替えペースを短縮させる。

モロッコ市場の7割は輸入車で、コンパクトカーが中心だ。ルノーのダチアが長年トップで、ステランティスのプジョーとオペル、フォルクスワーゲンといった欧州車、2000年代に進出した現代(ヒュンデ)、起亜の韓国勢の車種が、上位10社の常連である。ここにいま、中国車が参入してきている。

モロッコで輸出販売している51の自動車メーカーのうち、中国メーカーは3割となる17を占めるまでになった。SAIC(上海汽車)、Chery(奇瑞汽車)、Geely(吉利汽車)といった企業だ。

その中国車のトップをゆくのはBYDである。2023年にハイブリッドと電気自動車の販売を開始すると、「イケてる車」として富裕な自営業者や都市部の若いトレンド層の心を捉え、2025年には5,000台近くを売るまでに伸びた。トヨタもハイブリッド車を販売しているのだが、BYDとは水をあけられている。

2025年にはテスラも本格的にモロッコに参入した。南アフリカとは違い、ガソリン車が十分に普及しきる前に電気自動車の波が来ている。実はモロッコは、政策によりガソリンよりディーゼルの方が安く、街を走る自動車のほとんどはディーゼル燃料を使っていることも、政府に電動化を急がせている。欧州車はディーゼル自動車の販売を続けられず、後を継ぐのが中国のハイブリッド・電気自動車というわけだ

トヨタも2026年4月、モロッコで完全電気自動車bZ4Xの発売を開始した。電気自動車市場の観点からみたモロッコ市場については、別稿で解説する。

モロッコで販売されているBYDの電気自動車SEAL(ABP撮影)

トヨタがモロッコで販売するヤリスのハイブリッド車の広告(ABP撮影)

アフリカの国ごとに異なる新車VS中古車構造とメーアー別シェア

アフリカでもっとも自動車販売市場が大きいのは、63万台を販売する南アフリカだ。2位がモロッコの28万台、3位がエジプトの19万台と続く。これらの国では主として新車(および国内中古車)が販売されている。

ただし、こちらの「アフリカの自動車生産国と日本メーカーの動向」でも書いたように、アフリカの自動車市場全体を見渡すと、中古車が圧倒的に優位である。ケニアでは、全登録車両のうち輸入を含む新車の割合は10%ほどしかない。この割合は、消費者の懐具合もさることながら、政策や規制に寄るものが大きい。

アフリカの自動車市場規模とシェア上位メーカー(2025年)

アフリカにおける市場規模とメーカー別シェア

*赤は中古車輸入を禁止している国、紫は禁止していないものの規制が強まっている国、グレーは中古車輸入が容易な国
*台数には並行輸入車を含む
*自動車メーカーの順位に記載があるものは、新車販売における順位
*下線は中国メーカー

コートジボワールは、2018年に輸入できる中古車を登録から5年以内とした。そうなると、若くて高い中古車しか輸入できなくなるため、手頃な価格の新車に勝ち目がでてくる。スズキがコートジボワールの新車市場で首位のシェアを占めているのはこれが理由だ。

南アフリカ、エジプト、アルジェリアは基本的に中古車の輸入を禁止しており、新車か国内中古しか流通していない。エチオピアは斜め上をゆき、ガソリン中古車を含むすべてのガソリン車の輸入を禁止した

スズキは、こういった、中古車の輸入ができないか、規制年限が若かったり税負担が重いなどで輸入が難しい国で強い。政府が中古車規制を強めれば、新車メーカーのチャンスにつながる。

チュニジアやモロッコも中古車の輸入年限は5年なので、市場では新車も売れる。一方、8年のケニア、10年のガーナやタンザニア、12年のナイジェリアは、日本などで安く買い付けることができるため、新車とは価格差が大きい安価な中古車が普及する。上の地図でみてとれるように、中古車規制が厳しい国ほど新車の構成比が高い。

アフリカの政府にとって、自国での自動車生産は夢であるため、中古車の輸入は制限したい。しかしガーナの例にみるように、規制を敷いても、手頃な価格の新車や適度な金利の自動車ローンといった受け皿が用意されていなければ、実効性は薄い。国内で生産する新車か、手頃な価格で庶民が買える中古車輸入か、せめぎあいは続く。

日本の自動車メーカーがアフリカで直面する競争

トヨタ自動車は、豊田通商・CFAOを通じて、アフリカ54カ国すべてに販路を確保している。1957年のエチオピアでの販売開始以来、70年かけて「日本といえばトヨタ」「トヨタといえば信頼」という評判をアフリカで作り上げてきた。ランドクルーザーのようないつかは乗りたいプレミアム車、ハイラックスのような頼もしいピックアップ、ハイエースのような公共交通に使われるバンという三段構えのポートフォリオをとっている。

しかしトヨタは、小さくて構わないので手頃な価格でコスパのよい車がほしいという、車に道具としての実用性を求める層向けの車は届けられていなかった。だからスズキがシェアを伸ばした。スズキの一番のユーザーは、商売で使うがゆえにコストに敏感なUberなど配車アプリやタクシーのドライバーである。

いまこの同じ層向けには、中国のコンパクトカーや電気自動車が追ってきている。スズキは商用向けバジェッドカーだけでなく、個人消費者向けのSUVを強化しているが、このカテゴリーにはこのカテゴリーで同じインドで生産するヒュンデやCheryがいる。

いすゞ自動車もアフリカで存在感が高いメーカーだ。工場があるケニアでは、人々はいすゞをケニアのメーカーだと思っている。トラックはもちろんのこと、D-maxのようなピックアップも、南アフリカでも、GM車シボレーとして売られているエジプトでも、実用性と堅牢性で評価が高い。

いすゞ自動車のケニア工場(ABP撮影)

しかし、BYDをはじめとする中国の電気自動車は、信頼と耐久性が重視されていた自動車という製品カテゴリーを作り変えつつある。スタイリッシュなデザインで情緒的な価値をアピールする、ガジェットのような車は、携帯の世界にiPhoneが登場したときのような価値転換を迫りながら、アフリカにもやってきている。アフリカ以外でも起こっている自動車産業のゲームチェンジが、アフリカにも及んでいるのだ。

ハイブリッドや電気自動車といった次世代自動車がアフリカでどのように受け入れられているか、また今後より広く受け入れられる可能性があるのかは、次稿「アフリカで電気自動車へのシフトは進むか」で解説したい。

  • 日本の自動車メーカーの日々の動きは、週刊アフリカビジネスで毎週お知らせしています。
  • 日本企業のアフリカでの動きは、こちらの「アフリカにおける日本企業の動き」で毎月まとめています。自動車メーカーの動きは頻繁に取り上げられています。
  • アフリカで事業を行っている日本企業については、「日本企業のアフリカ進出動向と事例」で包括的にとりまとめています。日本の自動車メーカーの他、自動車メーカーに納品している部品メーカーについても掲載しています。

※引用される場合には、「アフリカビジネスパートナーズ」との出所の表記と引用におけるルールの遵守をお願いいたします。

執筆者: 梅本優香里

アフリカビジネスパートナーズ代表パートナー。2012年創業、年間500社のアフリカ企業を訪問する

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