日本企業のアフリカ進出を読み解く(1)近年の6つの動き

この5年で日本企業のアフリカ進出にどのような動きがあったのか

日本企業のアフリカ進出を読み解く(1)近年の6つの動き

第9回目となるTICAD(アフリカ開発会議)が、2025年8月に横浜で開催されることが決まった。日本とアフリカの間で開かれる最大の会議で、この10年はビジネスが重要なトピックスとして挙げられてきた。10年を経たいま、日本企業のアフリカビジネスはどうなっているのか。弊社が発行した「アフリカビジネスに関わる日本企業リスト」の調査結果をもとに、最前線の現場から、日系企業のアフリカビジネスの現在地を考察したい。

この連載では「日本企業のアフリカ進出を読み解く」というテーマで、以下のトピックスを順次掲載する。当ページは連載1回目である。

(1)アフリカにおける日本企業、近年の6つの動き
(2)日本企業のアフリカ進出はこの10年で進んだのか
(3)欧米諸国、または中国インドなどのグローバルサウスは、アフリカに進出しているのか
(4)日本企業はアフリカで成功しているのか。アフリカビジネスの代表的な日本企業はどこか
(5)スタートアップ投資、電気自動車、気候変動といったビジネスの潮流にのる日本企業はどこか
(6)アフリカにおけるジャパン・プレミアムと日本企業のプレゼンス
(7)日本企業のアフリカビジネスの特徴-その課題と処方箋

(1)アフリカにおける日本企業、近年の6つの動き

日系企業のアフリカ進出数

715拠点

アフリカに進出する日本企業の数

アフリカビジネスに関わる日本企業リスト(2024年・最新版)」は、2019年から5年ぶりの発行となった。この5年で、日本企業の進出数は57社、拠点数は98拠点増えた。

進出企業数より拠点数が多いことから、すでに進出していて2カ国目、3カ国目へと拠点を増やした企業がかなりあることがわかる。

この増加数は純増数だが、減った産業や減った国もあるかもしれない。どの国やどの産業で日本企業は事業を増やしているのだろうか。

また、個人がアフリカ立ち上げた企業が39社増えているのも目立つ。

以下でこれらの動きを読み解いていく。

動き1: 日系メーカーのアフリカ複数国での工場設立が進む

2カ国目

この5年で、日本たばこ産業や大塚製薬、住友電工、矢崎産業といった、長くアフリカで製造に関わってきた経験豊富な企業が、アフリカの新しい国で工場を設立している。日本たばこ産業はすでに5カ国でたばこ工場を持ち、6カ国でたばこ葉の調達を行っているが、2024年にあらたにモロッコに工場を作った。

大塚製薬は70年代からエジプトで輸液や医薬品の製造を行ってきたところ、2022年に2カ国目としてナイジェリアに打ってでて、ポカリスエット工場を建設中だ。アフリカ市場をよく知るこれらの企業は、順調に事業を拡大している。

また、ダイキン工業、荏原製作所、TOPPANといった、比較的近年アフリカに進出したメーカーも、2カ国目の進出を早期に実現した。

住友電工と矢崎産業は、自動車用のワイヤーハーネスをモロッコ、エジプト、チュニジアといった北アフリカの国々で製造し、欧州の自動車工場に輸出している。自動車は、アフリカにおける日本企業の主要産業だ。この5年でトヨタ、スズキ、ホンダがガーナで、いすゞがエチオピアで、三菱自動車がケニアで生産を開始し、アフリカの中で拠点を広げた。

スズキはこの数年、インドからの輸入車両を使ってアフリカで大きく販売台数を伸ばしており、南アフリカでは国内シェア3位まで到達した(1位はトヨタ)。2018年にトヨタと結んだ提携に基づき、アフリカ複数国で豊田通商を通じた販売を行っている。

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動き2: 新規進出する日本企業が増えたのは、ケニア、モロッコ、ナイジェリア、南アフリカ

27社

アフリカに進出する日本企業の進出数の多い国

日系企業はアフリカのどの国に進出しているのだろうか。

左が国別の日系企業の進出数(クリックで拡大)である。このなかでもっとも増えたのがケニアだ。日本企業はなぜかケニアが好きで、「アフリカ」をイメージしたときに浮かぶ典型的な国がケニアなのだ。この5年で27社が進出している。

ケニアは、資源もなく人口も多くはないが、アフリカのなかでは都市化が進んでおり、消費が成熟している。モバイルマネーM-Pesaで知られるように、新しい技術をとりいれる進取の気質にも富む。こういった消費者・市場を狙って、この5年では、エーザイ、日本ペイント、ホシザキ、荏原製作所、ピジョンが新たにケニアに進出した。日本企業にとってケニアは「アフリカのゲートウェイ」なのだ。

ケニアは、タンザニア、ウガンダ、ルワンダといった近隣国の経済の中心でもあるため、東アフリカ全体を統括する拠点として進出した企業もある。たとえば伊藤忠丸紅鉄鋼やジェイテクト、メタルワン、清水建設といった企業が、東アフリカ拠点をケニアに置くべく新たに進出している。

同じ理由で、ケニアは個人でスタートアップを立ち上げる人も多く訪れる。この5年で、Hakki Africa、Peach Cars、Doya、Vunapayといったスタートアップがケニアで事業を開始した。Allmなど、日本のスタートアップもケニアに法人を設立している。

次に進出企業が増えたのはモロッコだ。この5年で12社が進出した。モロッコではステランティスとルノーが自動車組み立てを行っており、これらに納入する日本の自動車部品メーカーが多く進出している。トヨタと日産が工場を持つ南アフリカに次いで、自動車部品工場の進出が多い。この5年でも、旭化成、古河電工、オーシャンネットワークエクスプレス ジャパン(ONE)が法人を設置した。

モロッコ政府は「欧州の工場」としてのポジションを得るため、道路や港、工業団地の整備を進めている。欧州と中東の不安定や、欧米の中国排除の動きはモロッコにメリットをもたらしており、急速に存在感を増している。自動車だけでない。ファーストリテイリング(ユニクロ)は、衣料の委託工場をモロッコに設置した。これは、ユニクロにとってアフリカで初めての委託工場となる。

ナイジェリアは、アフリカで事業を行う企業にとって、「いつかはナイジェリア」と目指される国だ。その人口や事業規模はとても魅力的だが、事業の難易度も高いためだ。ここに近年チャレンジしたのが、大塚製薬、ダイキン工業、荏原製作所、TOPPANだ。大塚製薬は前述どおりポカリスウェットの工場を建設中で、ダイキン工業はその代理店を通じて、エアコンの組み立て販売を開始した。この5年で9社が進出している。

ビジネス環境が整い、現地企業の洗練度が高い南アフリカでは、M&Aでの進出が可能だ。TOPPANは現地のIDシステムインテグレーターを、食品工場向け計測包装機械メーカーのイシダは現地包装機メーカーを買収した。自動車車体向けプレス金型メーカーのオギハラは、南アの豊田通商と合弁を立ち上げた。

気候変動の潮流を受けた動きもみられる。フルヤ金属は低温活性触媒を用いた環境事業で現地企業合弁を設立し、レアメタルの機会を狙うJX金属は駐在事務所を設立、日機装は南部アフリカで計画されるLNG用のポンプ事業のため子会社が南アフリカに法人を設立した。南アフリカにはこの5年で7社が進出している。

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動き3:総合商社の事業領域・アプローチのシフト

-12拠点

メーカーの進出が増えた一方、総合商社は事業領域やアプローチをシフトさせたため、拠点数は純減となった。総合商社にとってアフリカは、伝統的に石油や石炭、資源開発や発電プロジェクトの相手国だった。ところが、気候変動・脱炭素の動きでこれらプロジェクトはアフリカにおいても軒並み閉鎖されてしまった。各社が油田権益を売却し、火力発電プロジェクトを断念したため、この5年で7大商社あわせてアフリカ12カ国から撤退している。

かわりに事業機会が高まっているのが再生可能エネルギーやグリーンエネルギー開発だ。総合商社はすでにアフリカでも、天然ガス、太陽光、風力、水力発電への投資にシフトしている。双日は2022年にナイジェリアで産業向けガス小売企業に資本参加した。豊田通商は2024年にアフリカの再生可能エネルギーに特化した新会社を設立している。

広大な土地があり、欧州等への輸出や船舶への供給も見込めるアフリカは、グリーン水素、グリーンアンモニア開発の拠点として世界で注目されている。伊藤忠商事が南ア、ナミビア、エジプトで、住友商事がモロッコで案件形成に動いている。

カーボンクレジットや循環型ビジネスの形成にも動く。日本から輸出された中古自動車は、アフリカで最後まで使われ廃車となるが、そのスクラップ資源を再度日本に輸入しリサイクルするようなサーキュレーション事業への取り組みも進められている。こうやって、伝統的な炭素資源からグリーンエネルギーへターゲットを変えた総合商社は、この5年で撤退もあったかわりに、新たな進出も5カ国で行われている。

総合商社にとって思惑が外れたのが、消費ビジネスの開発を狙って行ったスタートアップ投資である。アフリカは人口が伸び消費が増えることがひとつの大きな魅力であり、総合商社はどこもこの消費領域を狙っている。しかし、アフリカ市場は、日本から商材をもってこようにもゲームのルールが違い、現地消費企業に投資しようとしてもサイズがあわない。そこで各社が期待を託したのがスタートアップ投資だった。

総合商社各社は、スタートアップの消費者アクセスを通じた事業開発やシナジー形成、知見獲得を狙って、2016年以降相次いでアフリカのスタートアップに出資した。しかし思ったほどはうまくいかず、さらにスタートアップへの調達環境の悪化は世界同様アフリカにもやってきて、2022年後半以降事業閉鎖や破産が相次いだ

いまはむしろ、現地の事業会社との協業に回帰しているといえよう。住友商事は2021年、英Vodafoneやケニアサファリコム社とエチオピアで通信事業を立ち上げ、双日は2023年ケニアで現地メーカーと即席麺の製造販売を開始した。三井物産は2023年エジプトで養鶏、食品事業を行う現地企業へ出資している。

動き4:消費財企業は苦戦。「アジアの成功のジレンマ」

25億人

日本やアジアが人口を減らしていくなか、アフリカは唯一、2100年になっても人口が伸び続ける地域だ。アフリカの人口は2050年には25億人まで増え、世界人口の4分の1がアフリカの人口で占められると予想されている。消費者の数というボリュームビジネスを行う消費財企業にとって、アフリカ市場を攻略することは必須である。

しかし、現時点では日本の消費財企業はいずれもアフリカで苦戦している。その国で高いシェアをもつ企業は、エチオピアでナンバーワンたばこメーカーであるJTのような例に限られる。90年代からナイジェリア北部に販売網を持つ味の素、ナイジェリアで合弁により即席麺を製造販売するサンヨー食品、エジプトでおむつを製造し販売するユニ・チャーム、エジプトで20%の資本をもつ合弁先が高価格帯冷蔵庫を売るシャープ、こういった企業は日本の消費財メーカーのなかでは先を走っているが、いずれも現地市場に占めるシェアが高いとはいえず、奮闘しているさなかにある。

アフリカにおける消費者が求めるニーズと、日本企業が日本を中心としたマーケットで得意とする商品群に乖離があることがひとつの理由だ。しかしそれは、欧米企業にも韓国企業にもいえることである。欧州の消費財メーカーはアフリカでも強い企業が存在し、韓国メーカーは家電や携帯で強く、近年は美容商品などでも存在感を増している。

アジアで成功した日本企業ほど苦戦する傾向も見られる。自社の成功パターンをどうしてもなぞってしまい、アフリカのゲームのルールに適応できないからだ。

これはなにも日本企業だけにみられるわけではない。アフリカでは中国企業が躍進しているが、シェアトップをとったり、大きなゲームチェンジャーとなっている中国の消費財企業は、中国からアフリカに進出した企業ではなく、中国人がアフリカから始めた企業だ。次にとりあげるいわゆる「アフリカボーン企業」であり、彼らは中国のやり方をそのままアフリカに持ち込んだわけではない。

アフリカは、日本や中国、アジア市場のタイムマシーンではない。タイムマシーン経営を行っている限り、アフリカでは勝てない。いかにこれまでのやり方を棄て、成功のジレンマから抜け出せるかが、アフリカにおいて消費財企業が成功する鍵となっている。

動き5:個人が立ち上げた「アフリカボーン企業」の増加

100社

この5年の動きでとくに目立ったのは、「個人が立ち上げたアフリカ生まれ」の企業が急増したことだ。日本からアフリカに進出したのでなく、はじめからアフリカで立ち上げられた日系企業は、2019年以降とくに増加した。

このうち、スタートアップと分類される企業が約50社、飲食や物販、旅行会社などが約50社存在する。

50のスタートアップのうち、7社は、累計1億円以上を調達している。もっとも多い累計35億円を調達したWasshaはIPOを目指しており、実現すればアフリカの日系スタートアップではじめての上場によるエグジットとなる。

スタートアップのみならず、現地に根を張った飲食やフランチャイズも増えている。アフリカ各国で個人がはじめた日本食レストランが生まれているほか、京都発のカフェチェーンアラビカ、神戸のラーメンチェーンTDFがフラチャイズでアフリカに出店した。土壌改良材やコインランドリーのフランチャイズ展開を行っている企業もある。

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動き6:日本とアフリカの間の新たな貿易品目

7.5万t

アフリカといえば、コーヒー、紅茶、カカオといった商品が日本に輸入されているというイメージが強いだろう。スーパーではモーリタニア産のたこを日常的に見かけるようになり、輸入バラの半分はケニアのバラであることも知られるようになった。

実はそれだけではない。ごま油のごま原料、刺し身や鮨に使われるマグロ、スーパーに並ぶグレープフルーツ、飲料メーカーが使う柑橘類や果汁もアフリカから輸入されている。それに加えて近年は、エジプトからは冷凍いちごや加工や野菜、モロッコからはイカ、ケニアから白身魚や加工紅茶、南アフリカからはアボカド、冷凍果物、桃の缶詰など、輸入される農水物の種類が拡大している。

業務用スーパーの神戸物産は、エジプトに農業法人を設立した。現地で加工し、日本に輸入する予定だ。

日本からアフリカへ輸出されている水産品もある。たとえばサバ。ナイジェリア、エジプト、ガーナといったアフリカ複数国へは、日本市場では売れない小ぶりのサバが輸出されている。2021年で7.5万トンが輸出された。モーリシャスやエジプト、南アフリカへは、いわしも輸出されている。

日本茶のアフリカへの輸出も行われている。とくにモロッコは、前述のように欧州の輸出拠点となっているため、モロッコに茶葉を輸出し加工した後、欧州に輸出している企業もある。

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次回は2回目のトピックス「(2)日本企業のアフリカ進出はこの10年で進んだのか」について掲載する。

※引用される場合には、「アフリカビジネスパートナーズ」との出所の表記と引用におけるルールの遵守をお願いいたします。

執筆者: 梅本優香里

アフリカビジネスパートナーズ代表パートナー

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