アジアと全く違うアフリカのバイク市場、電動バイクが存在感。現地で組み立て生産

アジアと全く違うアフリカのバイク市場、電動バイクが存在感。現地で組み立て生産

本稿は、休刊したスタートアップメディアTechableへの寄稿記事である。アフリカのスタートアップを紹介する記事の寄稿を依頼され、2024年の10カ月にわたり掲載されたものを順次再掲する。

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アフリカビジネスパートナーズは2012年以降のすべてのアフリカスタートアップへの投資案件を記録したデータベースを保有しており、それにもとづく包括的なレポートである「アフリカスタートアップ白書」を発行している。また、「週刊アフリカビジネス」では、アフリカのスタートアップの調達情報をリアルタイムでとりあげ、毎週メールで配信している。当記事はこれらの情報ソースをもとに作成したものである。

途上国といえば、大量のバイクがぬうように走る光景を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、アフリカでのバイクの使われ方は、アジアとまったく違う。アフリカを走る多くのバイクは、アジアや日本のような私的な利用ではなく、人を運ぶバイクタクシーや、モノを運ぶ宅配便、eコマース配送といった事業目的で使われる商用バイクが大半を占めている。

都市、農村を問わずバイクへの需要は高く、仕事がない若者を中心に、個人がすぐに収入を得られる手段として人気がある。

ところが昨今の世界的なガソリン価格の高騰により、個人のバイクライダーとして生計を立てる人々の暮らしは厳しさを増している。この解決策として注目を浴びているのが、「電動」バイクだ。さらには、電動バイクの組み立て生産もはじまっている。

ベナン発のSpiroがアフリカ各国で存在感

ベナンという国がどこにあるかご存じだろうか。アフリカの大国ナイジェリアコートジボワールの間に挟まれた、日本の約3分の1程度の面積の国だ。この西アフリカの小国ベナンで生まれたスタートアップSpiroが、意外にもアフリカの電動バイク業界で存在感を発揮している。

2019年設立のSpiro は、自社開発した電動バイクの組み立て生産を行う企業で、ベナンで事業を開始したのちに、トーゴルワンダウガンダケニアへと進出した。同社はバッテリー交換ステーションを各地に設けており、そこで充電済みのバッテリーに即座に交換するサービスも提供。ユーザーの利便性向上に貢献している。当初は中国でのみ電動バイクを生産していたが、2023年にはケニアの工場で、自社にとって初めてアフリカでの生産を開始している。

Spiroの各国へ向けた販路開拓において、同社が各地のファイナンス企業との協業を進めていることも注目に値する。三菱商事の出資先でありアフリカ11か国で太陽光発電キットなどの割賦販売を行う英Bboxx や、ケニアのバイク向け融資 Watu Credit やMogo との協業により、販路を着実に拡大している。

さらに政府との提携にも積極的だ。ケニア政府 とは、前述の工場設立やバッテリー交換ステーションの追加も含め、電動バイクを全国に普及させるための提携を結んでいる。現地で若者の就職難が深刻である背景から、バイクライダーの生活の安定は政府としても喫緊の課題だ。2023年にケニア政府は、国内を走る電動バイクの台数を今後2年間で30%増やし、50万台まで引き上げるという目標を発表している。

一方、ウガンダ政府とも同様の提携を結んでいる。ウガンダではケニア以上にバイクが主要な交通手段となっている。今後ウガンダには2億ドルを投じる予定で、その一部を費やし、首都カンパラに電動バイクの組み立て工場を建設する計画である。

西アフリカのベナン生まれのスタートアップが、近隣国のみならず東アフリカに飛び出し、政府や大手企業と協業し存在感を発揮している。

アフリカの電動バイク生産はルワンダから始まった

アフリカでの電動バイクの製造は、東アフリカの同じく小国であるルワンダから始まっている。 Ampersand は、2016 年にルワンダで創業し、2019 年にはアフリカでどこよりも早く電動バイクの組み立て生産を開始した。いまでは宅配やタクシーを営む二輪の商用ライダーに対して電動バイクのリースや販売を行い、バッテリー交換ステーションの設置も進めている。

直近では2023年12月に1,950 万ドルを調達しており、調達資金はバッテリーの生産増強やバッテリー交換ステーションの追加、バッテリーやソフトウエア、バッテリー交換技術の研究開発に用いるという。

日本企業による投資、協業も

日本企業による投資、協業も行われている。たとえば武蔵精密工業は、英国に本拠を置くケニアの電動二輪メーカーARC Rideに出資している。

ARC Rideは 2020年に設立されたスタートアップで、ケニアで電動二輪や三輪の組み立て販売と、バッテリー交換ステーションの設置を行っている。武蔵精密工業はデファレンシャルギアなどを製造する自動車部品メーカーで、同社が開発したモーターやパワーコントロールユニットを含むEV駆動ユニットをARC Rideに納入している。出資を経て、二輪を含む個人用や商用の電動輸送車の開発を行いARC Rideの商品ラインナップを増やす方針だ。なお両社は部品開発やデータビジネスの共同開発も行う 。

購入者へのファイナンス支援がカギ

このように電動バイクのスタートアップは国内生産によるコスト削減を進めているが、ガソリンバイクと比べるとまだ高価で、多くの個人ライダーにとっては手が届かない。電動バイクの購入に融資や割賦を提供する企業の増加が普及のカギになりそうだ。また事業用として長距離を移動することになるため、航続距離や充電ステーションの整備も課題となる。

ウガンダとルワンダの電気自動車業界に関しては、アフリカビジネスパートナーズ作成の「アフリカ業界地図・東アフリカ4カ国編」にて、主要企業や市場ニーズ、事業展開における課題や注意点について解説している。

サムネイルはケニアを走るArc Rideの電動バイクをつかったUberサービス(ABP撮影)

※引用される場合には、「アフリカビジネスパートナーズ」との出所の表記と引用におけるルールの遵守をお願いいたします。

執筆者: 藤原梓

アフリカビジネスパートナーズコンサルタント

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