
アフリカスタートアップ白書
10年以上にわたり蓄積したスタートアップ調達情報のデータベースをもとに作成された白書。日本語でここまでアフリカのスタートアップを解説したレポートは初めて。無料でダウンロードできます。
本稿は、休刊したスタートアップメディアTechableへの寄稿記事である。アフリカのスタートアップを紹介する記事の寄稿を依頼され、2024年の10カ月にわたり掲載されたものを順次再掲する。
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アフリカビジネスパートナーズは2012年以降のすべてのアフリカスタートアップへの投資案件を記録したデータベースを保有しており、それにもとづく包括的なレポートである「アフリカスタートアップ白書」を発行している。また、「週刊アフリカビジネス」では、アフリカのスタートアップの調達情報をリアルタイムでとりあげ、毎週メールで配信している。当記事はこれらの情報ソースをもとに作成したものである。
アフリカの人口増加にともない市場の拡大が期待できる事業として、教育(Education)とテクノロジー(Technology)を組み合わせたサービスを提供する、いわゆるエドテック(EdTech)スタートアップを取り上げる。
アフリカの人口は2023年時点で12億人に達している。2050年には25億人まで増え、世界人口の4分の1をアフリカが占める計算だ。さらに2050年以降は若者の比率が高い「人口ボーナス期」に突入する見込みで、若い世代がアフリカ経済を牽引することが期待される。
若者人口の増加を経済成長へとつなげるために重要なのが、学校教育や職業訓練だ。一方アフリカの教育産業は、所得や地域による教育格差、財政難によるカリキュラムや教師の質の不足、通学にかかる費用の親の負担といった課題を抱えている。また、教育を受けることができ、たとえ大学まで出たとしても、就職するのは困難だ。このような課題をテクノロジーの力を借りて解決するのが、アフリカのエドテックスタートアップである。
生徒向けのオンライン学習プラットフォームを提供するスタートアップは数多く存在する。学校では足りない学習内容を補ったり、学校教育が行き届いていない地方に質の高い教育を提供したりといった事業を展開している。
たとえばナイジェリアのuLessonは、録画済みのビデオ授業をアプリで提供する「オンライン塾」だ。小学校から中学校、高校までの学習内容に対応しており、クイズを取り入れることで生徒のやる気を高めているほか、試験対策として使える小テストも提供。学習時間や正答率などを把握するためのダッシュボード機能も備わっており、利用料金はサブスクリプションで請求する。
アプリの累計ダウンロード数は500万回に達しており、これまでに1,400万回のビデオ授業が視聴されている。同社は、創業した2019年にシードラウンドで310万ドルを調達した後、2021年にシリーズAラウンドで750万ドル、同年のシリーズBラウンドで1,500万ドルを調達している。
ケニアのKukuaは4~8歳の子どもをターゲットに、STEAM(科学、技術、工学、リベラルアーツ、数学)の学習アプリSuper Semaを提供している。同アプリでは、オリジナルキャラクターであるアフリカの10歳の少女を主人公に、ストーリー仕立てで学習を進めていく。Kukuaは創業した2018年にシードラウンドで250万ドルを調達し 、その後2022年にシリーズAラウンドで600万ドルを調達している。
先述のとおりアフリカでは、順調に進学して大学を出たとしても、就職先を見つけるのは難しい。そのため、職を得るべく市場でニーズのあるスキルを身につけたいと考える若者は多く存在する。こうした需要に応えているのが、ITスキルに特化したトレーニングを提供するチュニジアのGomycodeだ。
Gomycodeは、ソフトウェア開発やデジタルマーケティング、データサイエンス、人工知能(AI)といった、仕事に直結するITスキルのトレーニングコースをオンラインで提供している。創業の地チュニジアを始めとする北アフリカ、西アフリカ、東アフリカの計8か国と中東2か国で事業を展開しており、およそ1,500人の現地講師を用意してオフラインでも授業を行っている。
創業した2017年以来の受講生は累計3万人に達している。Gomycodeが企業と提携することで就職先を斡旋しており、受講生の就職率は80%にものぼるという。提携先企業には、チュニジアおよび欧米のソフトウェア開発会社やフィンテック、マーケティング会社に加え、マイクロソフトなど著名企業も含まれる。就職先を探している学生だけでなく、企業の従業員向けにもコースを提供することで顧客を拡大している。
同社は2020年にプレシリーズAラウンドで85万ドルを調達した後、2022年にシリーズAラウンドで800万ドルを調達している。
生徒ではなく、学校の課題解決にアプローチするスタートアップもある。そのひとつであるモロッコのKoolskoolsは、学校業務を効率化するためのDX支援を提供している。教師は、Koolskoolsが配信する教材を使うことで授業の準備時間を短縮したり、タブレットで配信できるデジタル教材を授業に取り入れたりすることができる。生徒の成績をオンライン上で管理することで、教師の業務効率化にもつながる。創業した2020年に約41万7,000ドルを調達した後、2023年に約96万ドルを調達している。
ケニアのEd Partnersは、教育機関を資金面で支援している。低所得者向けに有志が設立した学校に対して、教室やトイレ、実験室、寮といったハードの建設資金や、授業で使うパソコンやインターネット回線の費用、通学バスの購入費用などに対して融資している。
これまでに350校に融資し、10万人以上の生徒に影響を与えてきた。同社は2018年に設立したのち、2021年に190万ドルを調達した。2023年にはオランダのインパクト投資 Oiko Creditからデットで150万ドルを調達したほか、米国国際開発金融公社(DFC)から1,000万ドルの融資保証枠を確保している。
ここまで見てきたように、アフリカの教育産業では教育を提供する側、受ける側の両方が課題を抱えており、企業にとってはチャンスが眠っている領域といえる。一方で、顧客である学生や教育機関は支払い能力が低いケースも少なくないため、事業として成り立たせるには、たとえばサブスクリプションで利用開始のハードルを下げるといった収益モデルの工夫が有効となる。より支払い能力が高い顧客を獲得すべく、チュニジアのGomycodeが提供するITスキルトレーニングのように、企業からのニーズが見込めるコンテンツを用意することも一案となる。
サムネイルはKukuaのサイトから
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