
アフリカスタートアップ白書
10年以上にわたり蓄積したスタートアップ調達情報のデータベースをもとに作成された白書。日本語でここまでアフリカのスタートアップを解説したレポートは初めて。無料でダウンロードできます。
本稿は、休刊したスタートアップメディアTechableへの寄稿記事である。アフリカのスタートアップを紹介する記事の寄稿を依頼され、2024年の10カ月にわたり掲載されたものを順次再掲する。
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アフリカビジネスパートナーズは2012年以降のすべてのアフリカスタートアップへの投資案件を記録したデータベースを保有しており、それにもとづく包括的なレポートである「アフリカスタートアップ白書」を発行している。また、「週刊アフリカビジネス」では、アフリカのスタートアップの調達情報をリアルタイムでとりあげ、毎週メールで配信している。当記事はこれらの情報ソースをもとに作成したものである。
前回とりあげた電動バイクについで、電気自動車のなかでアフリカで早く普及が進みそうなのは「電気バス」である。近年 世界でも注目されている「バス高速輸送システム」。BPT(Bus Rapid Transit)とも呼ばれるこの新しい交通システムは、バス車両と、専用道、バス優先信号などの公共車両優先システム(PTPS)などを組み合わせることによって、速達性・定時性を確保し、輸送力を強化できる利点をもつ。日本でも渋滞緩和のほか、ローカル鉄道の代替などとしても一目置かれている。
現在、アフリカではこのBRTの導入が後押しされている。アフリカ都市部における人の移動と物流は車両輸送に依存しているため、大量輸送バスは交通渋滞の解決という経済的な観点ではもちろんのこと、炭素排出量削減の観点でもメリットがあるのだ。
とりわけ電気バス業界にとっては、その導入しやすさにおいても利点がある。朝夕に住宅地から都市中心部へ人々を運ぶ大量高速輸送バスは、バイクや乗用車と違って路線が決まっていることから航続距離が確定しており、出発地点と到着地点にのみ充電ステーションを設置すればよいためインフラの設置費用が少なく済む。
導入がしやすいだけではない。大量高速輸送に活用されるバス車両は、公共交通として政府が大量調達することが多いため、売る側からすると販売の見通しが立ちやすい。脱炭素の流れから、アフリカにおける大量高速輸送バスの代替燃料化は重要なテーマであるとして、国際機関や開発機関も資金を出す傾向があるため、財政難のアフリカ政府においても実現の可能性が高いといえる。
大量高速輸送バスへの導入を目指して、アフリカで他社に先駆けて電気バスの組み立て生産を開始したのが、ケニアのBasiGoだ。
BasiGoは2022年、トヨタ車なども組み立てられているケニアの工場で、電気バスの組み立て生産を開始した。部品は中国BYDからの輸入だ。ケニア政府はナイロビの交通渋滞解消のために、幹線道路にバス専用レーンを敷設して乗客が多い地点を大型バスでピストン輸送する計画を発表しており、2020年には、同計画で調達するバスを電気バスかハイブリッド、バイオ燃料のいずれかの燃料を用いたバスに限ると発表した。ガソリンやディーゼル車を完全に対象外とする大胆な政策だ。BasiGoはこの機会を狙う。
政府による計画の実現を待って、いまは民間バス運行会社に対し、電気バスを販売するのではなく走行距離に応じて課金するリースモデルで提供し、利用しやすくしている。これまでにナイロビで19台をリースしており、今後3年間でケニア、ウガンダ、タンザニアの東アフリカ3カ国で1,000台まで増やすことを目指している。
2022年には、電気バスの組み立てと充電ステーションの設置に投じる資金として、豊田通商のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)であるMobility54などから計8億450万ケニアシリング(7億8,000万円)を調達している。
BasiGoの競合にあたるのがROAM Africaだ。同社は自動車を電気自動車に組み立て直すコンバージョン事業から開始し、電気バスや電動バイクの組み立て事業へとピボットした。電気バスの生産可能台数は月産40台で、BasiGo同様に中国から輸入した部品を用いてケニアで組み立てている。はじめから大量輸送高速バスに適したサイズを組み立てており、ケニア政府の計画実現を待っている。いまは学校や公共交通機関をターゲットに、支払い後に所有権を移転するリースにて販売を行っている。
前述のケニアをはじめ、アフリカ各国で予定されている電気バスを用いた大量高速輸送バス路線をいち早く開通させたのがセネガルである。
セネガルでは、急速な都市化や自動車が増えたことによる交通渋滞の解消を目的に、2020年に路線の建設を開始。専用レーンの敷設や停留所の建設にかかった年月は約3年、2024年1月に首都ダカールで開通式が行われた。総工費として1,000億円を費やしている 。
導入されたバスはなんと121台で、毎日30万人の乗客を乗せることを目指す。郊外の住宅地から首都中心部までの全長18キロメートルを45分で結ぶ。二酸化炭素の排出量は年間6万トン削減される。
仏投資会社Meridiamが70%、セネガルの政府系投資ファンドFONSISが30%を出資するスタートアップDakar Mobilitéが、15年間に渡りBRTの運営を担う。
アフリカでは今後ますます都市部に人口が集中し、交通渋滞が激化する。ダカールを先駆けとして、大量高速輸送での電気バスの導入が進むことは必須だ。
ガソリンやディーゼルを用いる従来の車両と比較して、電気バスは勝者が決まっていないため、現地スタートアップはもちろんのこと、アフリカへこれから進出する日本企業にとっても勝機があるといえるだろう。
電気バスは、車両や走行インフラの規格のスタンダードがまだないといえる。現地政府や民間企業に働きかけ、デファクトスタンダードを作っていく動きが有効だ。アフリカの政府は近年、電気自動車の現地組み立てに対する優遇措置を発表しているため、現地の情報をタイムリーに把握することも競争において有用だろう。
サムネイルはDakar Mobilitéから
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