日本企業のアフリカ進出動向と事例
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日本企業にとってのアフリカにおけるビジネスチャンスと成功の秘訣
30年後には世界の人口の2割をアフリカが占めるようになる。日本企業の好決算が見込まれる今、10年後、20年後の将来に向けて動く企業が増えるだろう。
筆者の会社がまとめた「アフリカビジネスに関わる日本企業リスト(2017年版)」によると、現在アフリカで212社の日本企業が484の拠点を置いてビジネスを行っている。この数は毎年少しずつ増えており、日本企業がアフリカに設けた販売代理店の数は既に1500を超えている。リストに名を連ねる日本企業の顔ぶれをみると、各業界のリーディング企業が一通りアフリカ市場に手をつけていることが分かる。
「日本の企業はアフリカビジネスに乗り遅れている」とよく言われる。民間企業に対しアフリカビジネスのサポートを行う筆者の会社には、日本以外の国の顧客もいるが、実際のところ、中国、インドや中東、それどころか旧宗主国といわれるイギリスやフランスでさえ、ほとんどの普通の企業はアフリカでのビジネスのやり方について正しい認識を持っていない。アフリカでの経験が長い一部の企業を除いては皆、手探りの段階なのだ。
日本企業が情報量でそれほど劣っているとは思わない。ただし、アフリカは、企業が持っている経営力の差が如実に表れてしまう市場だ。どこの国の企業であっても、自国と違う事業環境を持つ国に進出して成功できているような企業は、アフリカでも同じようにうまくいくし、そうでない企業はうまくいかない。
日本企業の場合、海外進出といっても、日本市場の延長線上にある東南アジアで日本企業を相手とするビジネスである場合が多く、あたかも「時差3時間の壁」があるかのように、その地域から先へと超えられていないのが現状だ。事業環境が日本に近い東南アジアや欧米の国だけでなく、時差2.5時間のミャンマーを超えて、インドや中東で成功できている企業ならば、アフリカで事業を行うのもそう難しいものではないだろう。
将来に向けて新しい事業、新しい市場を開拓し、自国と違う事業環境でもビジネスができる組織となっていくために、アフリカ市場をどう活かせるのか。どのような事業領域に日本企業のチャンスがあり、どこに課題があるのか。「アフリカビジネスに関わる日本企業リスト」で紹介している進出企業の動向を交えて、4つのポイントを解説する。
世界では2017年も、飲料、食品、化学、塗料といった業界で大型買収が相次ぎ、シビアなパワーゲームが繰り広げられた。業界再編が進む中、世界の競争についていくことができている日本企業は、アフリカでの地位固めを急いでいる。
たばこ売上高世界3位の日本たばこ産業(JT)は、人口1億人を抱えるエチオピアのたばこ公社を合計9億4400万ドルで子会社化した。塗料市場で世界トップ10圏内から上位を狙う関西ペイントは、11年に南アフリカの塗料大手を買収したのに続き、17年にはナイジェリアの塗料メーカーと合弁会社を設立し、ケニアのメーカーも買収した。世界トップ10に入る食品メーカーを目指す味の素は、アフリカの食品大手に資本・経営参加した。世界で戦う日本企業にとって、株価対策や買収防衛策としても、今後アフリカ企業への資本参加が、一つの選択肢になっていくだろう。
ビール業界では2016年に、世界首位のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)が2位だったイギリスの旧SABミラーの大型買収に踏み切った。その狙いの一つは、SABミラーが複数国にわたって高いシェアを持っていた「アフリカ市場」を手に入れることだった。アンハイザー・ブッシュ・インベブは買収後、新たな醸造所の建設を含む、ナイジェリア、ザンビア、ガーナなどへの大型投資を発表している。
グローバル企業が世界規模でのロジスティクスを組み立てるに当たって、アフリカは地理的なハブにもなる。スペインまで船でわずか15分のモロッコは、新たな"欧州の工場"として、仏自動車メーカーを中心に投資が続いている。日本の自動車部品メーカーも従来の系列の枠を超え、モロッコ進出を急いでいる。
ワイヤーハーネス世界大手の矢崎総業や住友電装は、エジプトやチュニジアに工場を持つ。物流コストが多くを占めるワイヤーハーネスの場合、アジアで調達した原料を加工し、欧州に供給する上で、アフリカには"地の利"があるという。
ファーストリテイリング傘下のユニクロが、エチオピアでTシャツの試験生産を開始すると報じられているが、アパレル企業がアフリカに生産拠点を置くのは、アフリカで売るためでも日本で売るためでもない。米国と欧州で売るためなのだ。地理的な近さだけでなく、アフリカで作った衣料には「特恵関税」が適用できるのでコスト面でもメリットがある。海外売上高が国内売上高を上回りつつあるユニクロにとってもアフリカは、欧米市場へのドアを開き、アパレル業界で売上高世界3位のポジションを確固とするためのカギになっている。
日本企業の中で、グローバル企業に続いてアフリカ進出が早いのが、産業財や原料など、アフリカにある製造業を顧客とする企業だ。
「アフリカビジネスに関する日本企業リスト」によると、「電気・電子・情報機器・重電」の業種では、32社がアフリカで事業を展開しており、そのほとんどが「BtoB」ビジネスである。具体的には、オムロン、キーエンス、ファナック、三菱電機、安川電機といった企業のファクトリーオートメーション機器・システムや、検査機器、パッケージ機器などが、アフリカの現地製造業向けに代理店を通じて売られている。
アフリカの国々は、工業化の段階によって2つに分けられる。南アフリカ、エジプト、モロッコ、チュニジアといった世界に向けて工業製品を輸出できる国々と、ケニア、エチオピア、タンザニア、ナイジェリアといった国内供給のための基本的な製造業を営む国々だ。
アフリカの工業化の歩みはゆっくりしている。保護政策をとれず、産業が育つ前に国内では安価な輸入品が幅を利かせ、輸出するにも後追いでグローバルなルールでの競争を強いられてきたからだ。
ところが2017年あたりから状況は変わりつつある。アフリカの工業化につながる分野への中国による投融資が目立って増えているのだ。食品や電化製品などの工場開設、輸出促進のための軽工業の技術移転、工業団地、製油所、農業・食糧自給、電力、再生エネルギーといった分野への投資などだ。これまで「アフリカに資源と食糧を取りに来ている」と揶揄され、「現地で雇用を生まない」と叩かれてきた中国が、明らかに方針を転換している。
アフリカで港湾、鉄道、道路といったインフラが、中国の「早い」資金で続々と整備されているように、この方針転換がアフリカの工業化も後押しする可能性がある。また、アフリカの国々自身も、国内製造業への投資、原材料の国内調達、外資製造業の誘致への取り組みに真剣になっている。資源のない国はもとより、石油で潤ってきた資源国でも、原油価格の下落によって大きな痛手を受けたことが、やっと工業化に向かわせるきっかけとなった。
日本企業が手がける製造業向けの機器やシステムは、アフリカでもそれぞれの業界内で高い評価を保っている。高い生産性と事業継続性を手に入れたい現地の製造業は、高くてもいいものを買いたいのだ。アフリカの工場を訪れると、現地に代理店もないのに日本企業の機械を使っているのをよく見る。インターネットで検索し、友人・知人のツテをたどって、わざわざ欧州やドバイから相場より高い価格を払って何とか手に入れているのだ。
これほどの「ラブコール」があっても、現地には日本製品を扱う代理店がなかったり、代理店があっても、日本製品を積極的に販売したくなるような取引条件や関係性を構築できていないために、十分な営業活動がされていなかったりして、みすみす売り逃している。政府向けのセキュリティ、通信といった分野も含め、アフリカで日本企業の製品がデファクトスタンダードをとれる機会はまだまだ残されているというのにだ。
消費者相手の食品、家電、日用品といった消費財ビジネスは、一般的に消費意欲が旺盛な生産年齢人口が多い地域ほど、事業拡大がしやすい。日本では60年代から始まった生産年齢(15歳以上65歳未満)人口の比率が上昇し続ける「人口ボーナス期」が、世界第2の経済大国にまで押し上げ、消費ビジネスを花咲かせた。その時の成功体験をもとに、日本の消費財企業は製品や販売手法をアレンジして日本からアジアへと市場を「拡張」してきた。ところが、アフリカにおいては若い人たちが増えているにもかかわらず、日本企業の成功例はもとより、進出事例さえも少ない。
南アフリカとナイジェリアは、消費ビジネスでもアフリカの中心地だが、ここ数年は不況に沈んでいる。意外なことにこの不況は、消費財企業の勝ち組と負け組をはっきりさせる結果となった。例えば、インフレが進み雇用が切られる最悪の経済状況だった2017年までのナイジェリアで、食品世界最大手のスイスのネスレと英蘭ユニリーバはどちらも増収増益を達成している。
筆者の会社であるアフリカビジネスパートナーズは、ナイジェリアとケニアで、一次卸から路地の"パパママショップ"に至るサプライチェーンにおける、消費財の品揃えと価格の動きを毎日調査している。ネスレ、ユニリーバ、コカ・コーラのデータを見ると、市場動向に合わせて、日々絶妙な値上げやサイズの変更を行い、末端まで商品供給と価格浸透を徹底するための工夫をしている様子が見て取れる。
これらの企業の最大の強みは、商品より、ブランドより、何よりも、「市場の変化」を解釈し、それに即応し、オペレーションに反映させていける「対応力」なのだ。それは一朝一夕では身につくものではない。人口の多い場所にいけば成功が約束されるわけではなく、自国とは違うその地で対応していくことを可能にする経験と知見が成否を分けるのだ。
日本の大きな内需市場で商売をしてきた企業は、市場や流通のあるべき姿やオペレーションのイメージも日本が基準になっている。投資の意思決定の物差しも日本の経験が前提になってしまっている。
「競合他社が現地の市場特性や流通構造に気づき、小売店への営業に人を集中的に投入してドミナントを築いているにも関わらず、うちは日本やアジアでの成功体験から、スーパーの棚を押さえてマーケティングをやれば売れるはずという発想から抜け出せていない」
アフリカで4年以上営業活動を続けてきたがシェアを拡大できず、撤退の危機に瀕している、日本のある消費財メーカーの現地社員は、アフリカでのビジネスの成功法則を理解しようとしない日本の本社に対するいら立ちを隠さない。「アフリカでモノを売るのは新規事業を立ち上げるようなもの。ある程度の資金を最初に投じないと売り上げはついてこないが、過去の経験とマクロ数字に照らして論じているだけの本社はそれに気づかない」
同じ頃に同じ国で事業を開始した外資系の競合他社が、着実に売り上げを伸ばしているのとは対照的だ。
アフリカに進出する世界の企業は、国ごとに異なる市場特性や商習慣を学び、草の根からの販売網の構築に投資し、試行錯誤しながらオペレーションを組み立てている。そうやって時間をかけて対応してきた「経験値」の差が、アフリカにおける消費財ビジネスの成否を分ける。日本やアジアでの成功モデルを当てはめるのではなく、アフリカでの事業モデルを一から構築する。日本企業がその覚悟と決断ができるか否かで、将来のアフリカ市場を巡る勢力図は大きく変わるはずだ。また、そこで得た対応力は、アフリカ以外の市場でも活かされるだろう。
2000年以降アフリカでは、世界の金余りも背景に、エクイティ投資やベンチャー投資が盛んになった。海外からの事業投資はアフリカにとっても経済発展の命綱だ。
三菱商事はアフリカの広い地域でコモディティのバリューチェーンを持つ農業商社のオラム社に出資し、三井物産はLTE事業や農業商社に出資している。豊田通商はCSV(共有価値の創造)ファンドからケニアの医療機器販売会社やザンビアの農業法人に出資している。アフリカ向けプライベート・エクイティ・ファンドにリミテッド・パートナー(LP)として出資している日本企業もある。
アフリカへの事業投資は、「不確実性の掛け算」だ。マクロ経済や政治といったカントリーリスク、為替の不安定さに加えて、金融システムや税制、規制にも不透明さが残る。大きな投資ができる企業は取り合いになり、取り合わずに済む企業は見つけるのにコストがかかり、いずれにせよ儲けが少ない。思ったように業績を上向かせることができずに終わる投資も多く、次々転売されることで生き延びている被投資企業もある。
アフリカでは、国際機関や先進国の財団も投資を多く行っている。かつては、国際カンファレンスを転戦して人脈を広げ、感動的なプレゼンテーションのうまさで国際機関や財団、さらには民間企業からの投資や補助金を次々得るけれど、実のところ事業実態がない、「Grantrepreneur("補助金目当ての起業家"の意)」と揶揄される詐欺のようなアフリカの「起業家」が跋扈していた。
投資する側の、自社で見つけて判断するコストと「リスク」に鑑みると、大きな組織のお墨付きに乗りたいという意識が利用されているとも言える。しかし、成功する投資は、まだ他の人が気づいていない良い事業と良い経営者を足を使って見つけるに限るという鉄則は、アフリカでも変わらないのだ。
最近は、アフリカへの大きい投資は、シリコンバレーからくる。シリコンバレー式に、テック分野のスタートアップを対象に、初期の段階から将来の成長を見込んだ多額の投資をしている。アフリカのユニコーン企業はまだ2社程度だが、携帯やITを用いた決済や基礎的サービス、BtoBサービスやプラットフォームまわりへの投資マネーの流入は続きそうだ。
一方で、「フィンテックだ、モバイルだ」といった喧騒から離れた、地味ではあるが確実にニーズが眠る「オールドエコノミー」の業界に、ひっそりと良い起業家や経営者が隠れている。物流、食品加工、飲食、農業といった業界だ。中小企業から大企業へと成長するのが困難だと言われてきたアフリカの企業だが、ここ最近は成功例も出てきている。こういった企業は金融投資家にとってだけでなく、事業投資家にとっても、アフリカの市場や経営を知ることができる良いパートナーになるだろう。
(この記事は、日経ビジネスオンラインの連載記事「歩けば見える、リアル・アフリカ」が初出です)
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