日本企業のアフリカ進出動向と事例
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アフリカのリスクとアジアの成功のジレンマ。日本企業にとってアフリカビジネスの必要性とは

前回まで、日本企業がこの10年アフリカビジネスで紆余曲折し、ようやく本業でアフリカビジネスに取り組むという認識が育ってきたこと、その間に中国や韓国、UAEなどの企業がアフリカで躍進していることを解説した。
日本企業のアフリカ進出数は、年々増えている。しかしながら、たとえば中国の勢いと比べて、また日本企業のかつてのアジアでの快進撃と比べて、勢いは鈍い。
出遅れた日本企業は追いつけるのだろうか。なにが日本企業にとって、アフリカビジネスを難しくしているのか。弊社が発行した「アフリカビジネスに関わる日本企業リスト」の調査結果や、これまでの日本企業との相談実績、プロジェクト実績といった実体験から、紐解いてみたい。
この連載では「日本企業のアフリカ進出を読み解く」というテーマで、以下のトピックスを順次掲載する。当ページは連載4回目である。
(1)アフリカにおける日本企業、近年の6つの動き
(2)日本企業のアフリカ進出はこの10年で進んだのか
(3)欧米諸国、または中国インドなどのグローバルサウスは、アフリカに進出しているのか
(4)なぜ日本企業のアフリカビジネスは難しいのか
(5)日本企業はアフリカビジネスにどう取り組むべきか?効果的なアプローチと戦略
アフリカビジネスの難しさとしてよくいわれるのが、「リスク」である。アフリカが、リスク=不確実性が高いというのは、事実だろう。次の地図は、ビジネスリスクで世界を色分けしたものだ。
CofasのBusiness Climate Assessment(2026年6月発表)を元に、アフリカビジネスパートナーズ作成
ビジネスリスクは、財務情報含む企業情報の透明性、法制度における債権者保護と債権回収、制度・行政の質、外資含む事業者の参入しやすさを軸に評価されている。緑(Low)はリスクが低く、赤(High)はリスクが高い。
アフリカは全体的に赤い国が多い。規制、税制、許認可、通関などが複雑であったり、制度と実際の運用が一致しない場合も多い。ただ、アジアの国と見比べてみると、ケニアや南アフリカ、モロッコといった薄い緑の国々のリスク度は、インドネシアやベトナム、トルコ、インドと変わらない。中国はガーナやコートジボワールと同じだ。しかし、アフリカの国々とアジアの国々では、日本企業の進出数に大きな差がある。
日本企業からみると、たとえケニアとインドネシアのリスク度が同じだと客観的にいわれても、違和感が残るだろう。インドネシアのことはよく知っているし、インドネシアで事業を展開している日本企業も多い。ケニアのことはよくわからない。こう感じる場合の「リスク」は、上の地図が示すような客観的に不確実性が高いというよりも、アフリカのことがよくわからず事業経験もないためピンとこない、つまり「主観的に不確実性が高い」ことを指しているのだと思われる。
アフリカ54カ国それぞれの「ビジネスリスク」と、「カントリーリスク(マクロ経済や財政の持続可能性、ガバナンスの質、社会的・政治的リスク、気候変動リスクへの脆弱性)」は、以下のリンク先から閲覧できる。
関連情報:アフリカ54カ国それぞれのビジネスリスクとカントリーリスク(アフリカ国別情報)
アフリカの人口上位20カ国(千人)

国連の人口統計よりアフリカビジネスパートナーズ作成
アフリカをよく知る企業ならば、リスクではなく、需要の規模を課題と捉えることもあるだろう。たとえば、自動車工場を作ろうとしても、新車需要が年間数万台では投資にリターンが見合わない。アフリカ全体では10億人を超える人口がいたとしても、1カ国で1億人に届くのは4カ国のみだ。
地域経済圏による市場統合は十分には機能しておらず、貿易のためのインフラや制度が脆弱であるため、特定の国を拠点として周辺市場を広くカバーする戦略を取りにくい。規模の問題だけでなく、国ごとに言語、法制度、商慣行、通貨が異なるため、同一のビジネスモデルを他国に横展開するというのも有効でない。
日本企業は、1億人を超える単一市場である日本に適応する形で、事業モデルを構築してきた。アジアのように域内市場の統合が進んでいる地域であれば、日本市場を基準に確立した成功モデルを広く展開することも可能である。しかし、市場が国ごとに分断されているアフリカでは、同じ手法がそのまま通用しない。手持ちの事業モデルと離れたモデルは、既存事業の延長線上では設計できず、既存事業と離れていればいるほど社内の理解や合意もとりづらく、ハードルは上がる。
関連情報:アフリカ54カ国の人口、言語、経済指標(アフリカ国別情報)
需要の「内容」もハードルとなる。これが1960年代ならば、日本企業のつくる製品はそのままアフリカでも受け入れられていただろう。ところが日本の市場は、とくにこの30年、より細かく需要を拾い、品質を万全とし、小さな工夫で差異をつける方向に先鋭化してきた。基本的なニーズを手の届く価格で満たしたいアフリカの需要とのギャップが大きい。中国がアフリカで強いのは、両者のニーズの差分が小さいことも助けている。
アフリカでは、信頼できる現地企業を見つけることが難しいという声も聞かれる。日本企業がアジア諸国に進出するときは、親日家の現地財閥や中華系の代理店が水先案内人になってくれたし、日本の総合商社も環境整備を担ってくれた。中国でも東南アジアでも、日本政府が賠償やODAを通じてインフラ整備をし、現地政府からの支援も得ることができた。先に進出した日本企業も多くいたため、現地情報を入手しやすく、それら日本企業を顧客として事業を展開することも可能だった。
アジアにある「日本」という国に対する憧れや信頼も、日本企業の事業展開を後押しした。国有企業や現地の有力企業と合弁会社を設立し、その販売網を活用しながら、技術力を強みとして高品質な日本製品を販売するというモデルが成り立っていた。
アフリカにはこれらがすべてない。日本の存在感が必ずしも高いとはいえず、日本企業であるというだけで歓迎され優先されるとは限らない。総合商社が用意した工業団地はなく、現地政府から特別な優遇を受けられるとも限らない。
日本ブランドに対する一定の信頼はあるものの、アジア諸国のように、その背景まで広く理解されているわけではない。「日本の技術(Japanese Technology)」という言葉から共通のイメージを想起できるのは、日本人や日本のものづくりが、テレビなどを通じて繰り返し紹介されてきたからである。アフリカで「日本の技術」から想起されるのはトヨタ車だけだ。日本人の仕事に対する姿勢やものづくりの精神、工場における実際のオペレーションまで具体的に伝えなければ、この言葉だけで好意的な印象を喚起することは難しい。
アジアの経済成長は、多くの日本企業にとって初めてとなる海外進出を成功させるうえで、大きな追い風となった。冷戦期、米国は日本に対し、対中国の観点からも非共産圏アジアの経済的なリーダーとして経済成長することを望み、アジアから原料を輸入し、アジアへの投資を増やして、地域の成長と安定に貢献する役割を期待した。1960年代から80年代までのアジアで6~9%の成長が続いた背景には、こういった大国の国際政治上の要請と、それに伴う支援があった。
弊社アドバイザーの平野克己氏(アジア経済研究所元上席主任調査研究員)は、「日本では、アジアの成長理論を普遍的な理論だと捉えてしまっている」と言う。農業生産性が上ることで余剰人員により軽工業を発展させ、その輸出により外貨を稼ぎ、重工業に再投資していった-というアジアでみられた経済成長モデルを、政策によって他の地域でも再現できる普遍的なものだとみなす考えは、現在のアカデミアでは支持されていない。いわば事後的な整理であり、実現には国際的な力学や人口構造など固有の外部条件が大きく作用した。平たくいえば、アジアはかなり幸運だった。
日本企業のアジアへの進出や成功は、こういった幸運や、国際社会や政府の政策的必要性、アジアと日本の深い関係性、官民を挙げた総出の支援に支えられて実現したものといえる。
アフリカがアジアと同じ背景を持ち、同じ条件が整っていて、同じ進出方法やビジネスモデルを横展開できたならば、日本企業はもっと進出していただろう。そうでないことが、日本企業にとってアフリカビジネスを難しくしている。しかし、違う場所や顧客には、違うビジネスモデルが必要になるのは当たり前でないだろうか。
アフリカにおいても、アジアと同様の条件が整わなければ、日本企業の進出は難しいのだろうか。あるいは、必要な条件が整うのを待ってから取り組むべきなのだろうか。
以前、日本の上場企業の海外売上比率を調べたところ、大半の企業が50%を超えていた。JBICの海外直接投資アンケート調査では、非上場企業も含めた対象企業の海外売上比率は41%である。日本企業はすでに半分近い売上を、海外で上げている。

海外直接投資アンケート調査(JBIC、2025年)
ただし、その売上先をみると、上場企業においても、中国、ASEAN(タイ、インドネシア、ベトナム、マレーシア)やインド、韓国といったアジアと、米国、欧州で、9割以上を占めている。
JBICの調査結果でも(左図)、日本企業の生産・販売先は、中国、ASEAN、米、欧州にほぼ固定されている。アフリカのみならず、中南米、東欧、西・南アジアに進出する企業も限定的だ。
すなわち、日本企業の海外進出先は、地理的にかなり偏っているといえる。この偏りが、経験の偏りや、ビジネスモデルの手札の少なさにもつながっている。必要な人口、市場や流通のあるべき姿、オペレーションの方法が、日本やアジアでの経験が基準になっている。投資の意思決定の物差しも同様だ。アジアでうまくいった手法、アジア事業を率いた人物がそのままスライドされている。アジアでの成功法則が金科玉条として社内で固定化されており、違う市場で違うアプローチをとることができない。このため、アジアで成功した日本企業ほど、アフリカで苦戦する傾向も見られる。まさに成功のジレンマだ。
グローバル競争の渦中にある企業にとっては、この自社の経験の壁を超えることが、成否を決める。世界の市場は、それぞれ違う政治、制度、経済を持つ。多国籍に事業を展開する企業は、単一のアプローチではなく、複数のアプローチを持ち、複数の国に対応している。日本やアジアでやってきたことをそのまま持ち込むタイムマシーン経営は通用しない。
変化に対しても同様だ。アフリカに限らず、世界の市場は、予期せぬ変動に絶えずさらされている。ネスレ、コカ・コーラ、ABBなどのアフリカで事業を長年展開している多国籍企業をみると、マクロ経済が不安定なときこそむしろ業績を伸ばしている。そういう場合にどういう対策をとるべきか、知見があるからだ。アフリカでは、早期に参入した企業ほど優位に立ちやすい。その理由は、単に市場を先に獲得できるからではなく、環境変化に対応する経験と知見を、より多く社内に蓄積できるからだ。
グローバルで上位の企業となるためには、アフリカ進出を検討しないという選択肢は現実的ではない。各産業・業界で上位を占める競合多国籍企業の多くはすでにアフリカで事業を行っており、人口は無視できる規模でないからだ。日本企業でも、アフリカ54カ国に拠点を張り巡らせるトヨタ自動車・豊田通商をはじめ、日立、NTT、日本たばこ、関西ペイントといった、世界の上位企業となることを目指す企業は、アフリカで15年以上前から事業を始めている。これら企業では、アフリカ事業で利益を出しているだけでなく、アフリカが社内の海外事業を牽引する存在にもなっている。
とくに消費財企業にとっては、アフリカに挑戦するかどうかが、世界の企業になるかどうかの分岐点となる。アサヒGHDはこの10年、世界のトップ5ブランドと肩を並べるべく買収や海外展開を積極化してきた。昨年末には、ケニアで首位のビールメーカーであるEABLの買収を発表している。
新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大した2020年頃には、日本企業のあいだでも、アフリカビジネスに取り組む企業がむしろ増加した。中国や東南アジアに事業が集中することのリスクが顕在化し、強い危機感を抱く企業が増えたためである。既存市場への依存そのものがリスクであると認識し、事業地域を分散するとともに、新たな市場を開拓しようとアフリカに目を向けた。
世界のトップ企業を目指しておらずとも、事業地域のポートフォリオを構築し、地政学的リスクを分散することは必要である。アフリカ事業が当期利益の25%を超える豊田通商のように、独自のポートフォリオを持つことが事業の強靭性と評価され、株価の安定に寄与することも可能になる。
また、既存市場に集中し、新たな開拓が行われないままであることは、事業上のリスクに加えて、次のような組織上のリスクにもなる。
日本企業は1950年代から1980年代頃まで、いまよりも多くがアフリカに進出していた。アフリカにその頃進出していた日本企業のリストをみたことがある。時代背景を踏まえると、戦後から高度経済成長期に至る過程で、生き残るためになんとか海外で売上を上げようと、懸命に海外市場を開拓していいた日本企業の姿が浮かび上がる。
自ら市場を開拓し、販路をつくり、事業を立ち上げた日本人たちがいた。戦後の日本では、いまの大企業は創業間もないベンチャーであったし、挑戦者であった。企業として、そして日本として生き残らなければならないという強い危機感もあったはずである。
しかし、かつて挑戦心にあふれていた日本企業も、いつしか新たな成長機会の獲得よりも、既存事業の継続を優先するようになったのではないか。技術や品質の延長線上の改善は熱心であるものの、それをよくわからない(主観的に)リスクがある国や相手に販売することには消極的である。新しいビジネスモデルやアプローチを試すことは、社内で合意がとれない。優れた技術や製品を持ちながら、競争で後れを取っている日本は、良い身体的スペックを持ちながらも試合には負けている選手だ。
中国企業がアフリカで強いひとつの理由は、危機感と挑戦心である。彼らは出張に来たら、必ずモトをとるべくその場で契約をまとめて帰る。工場のそばの宿舎に住み、母国に2年帰らず必死に売り続ける。言葉が話せずとも、Wechatを使ってアフリカの人たちと交渉する。
社内に事業立ち上げや新規市場開拓経験がある人が多くないと、ますます新しく取り組むのが億劫になる。いまやらなくてもいいのではないか、もう少し合意をとるべく揉む必要があるのではないかと、現状維持に選択肢が傾く。
企業は、人間の寿命を超えて存続していかなければならない。組織の活力を失わず、若々しさを保ち続けるためには、新たな事業や市場への取り組みを通じて、自社を客観視した危機感や、結果が約束されていないことに挑戦する精神を意識的に組織へ取り込む必要がある。未知の国で、これまでと異なるアプローチを試し、自社とは違う論理の人たちとつきあい、自国や過去の経験とは異なる事業環境で成果を出す。この経験を重ねることで、企業は変化に対応できる組織へと成長する。アフリカ市場は、そのための実践の場となり得る。
次回の5回目では、「(5)日本企業はアフリカビジネスにどう取り組むべきか?効果的なアプローチと戦略」というタイトルで、日本がアフリカでビジネスを行うにあたって有効な方法論について掲載する。
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