アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定が運用を開始、何が変わるか

「アフリカ版EU」の現在の状況、アフリカ貿易の今後

アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定が運用を開始、何が変わるか

世界貿易機関(WTO)創設以来最大の自由貿易協定といわれる、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)協定が、2021年1月1日より運用を開始しました。

アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定 ー 読み方は、エーエフシーエティーエーです。

アフリカ域内の関税を撤廃し貿易ルールを共通化する「アフリカ版EU」と言われるもので、アフリカ54カ国・地域が参加し、13億人の人口と3兆4,000億ドルの経済規模を抱える貿易協定(FTA)となります。

当記事では、そもそもアフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定とは何であるのか、また運用を開始したというのはどういう状況なのか、日本企業にとってどういうメリットがあるのかの3点について、ひもといてみたいと思います。

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アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定とは何なのか

アフリカは概ね、資源や農産物など一次産品を輸出し、中間財や生産財、自動車や食料や日用品などを輸入しています。その貿易相手はアフリカ以外の国が中心で、貿易総額における域内貿易額の比率は15%と低い(欧州は70%、アジアは60%)傾向があります。

域内貿易が少ない理由としては、まずアフリカは1カ国ごとの人口は意外と小さく、1億人を超えるのはナイジェリア、エチオピアの2カ国のみで、吸引力のある国がないことが挙げられます。また、80年代の貿易自由化により、多くの国で国内に製造業が育つ前に輸入品が流れ込んだ結果、大きな市場が育ちませんでした。国をまたいだ物流インフラへの投資が行われなかったため、周辺国を巻き込むアフリカ内での製造サプライチェーンが成立しなかったことも、域内貿易が少なく留まってきた理由です。

関税撤廃や域内貿易ルールの共通化により域内の貿易を活発化させれば、域内で製造のサプライチェーンが成立するようになり、製造業の競争力強化やひいては貿易インフラの整備につながります。製造業の競争力が増せば、域外への輸出も増え、いまのような一次産品から付加価値の高い製品の輸出へと移行させることができます。そうすると、流出している外貨や付加価値をアフリカ域内に留めることができるようになります。アフリカの国々がひとつの市場となれば、事業の規模化や投資が進みます。

80年代に保護主義を捨ててから、アフリカはグローバル競争に勝てないままにきましたが、自由貿易圏を作り55カ国が一体となれば、世界において競争力を高めることができるはずです。このように、アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定は、アフリカの域内で関税を撤廃し、貿易ルールを共通化することで、アフリカの経済発展と世界における競争力強化につなげることを目指しています。

アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定は、2021年1月1日から正式に「運用開始」となりました。ただし最初に断っておくと、開始というベルは鳴らされたものの、実際に関税が撤廃された状態で貿易が行われる状況にはまだ至っていません。プロトコル上運用となったにだけで、撤廃を進めるための具体的なルールはこれから決めるという状態です。

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アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定の内容と進捗

構想60年、しかし異例のスピードの4年で発効

アフリカ大陸の国々が参加する貿易協定や単一市場の構想のはじまりは、1963年のアフリカ統一機構成立時までさかのぼります。現在のアフリカ自由貿易圏(AfCFTA)につながる内容が具体的に提示され、合意されたのは、2015年のAU(アフリカ連合)首脳会合においてです。それから交渉と根回しが始まり、2018年3月にルワンダの首都キガリで開催されたAU首脳会議において、44カ国が署名しました。

アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定が運用開始にこぎつけるまでには、以下のようなプロセスをたどってきました。まず各国が「署名」を行い、それぞれの国の国会や決議機関で「批准」し、AUに「批准書を提出」し、その批准書提出国が22カ国に達することができれば「発効」します。そして発効後に譲許表や原産地規則が合意されて「運用が開始」されます。

キガリのAU首脳会議の1年後、2019年4月に22カ国目の批准書が提出され、5月30日にアフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定は正式に発効となりました。ここまで4年、過去の経緯から発効には何十年もかかるだろうと考えられていたところ、想定よりも早いスピードで発効までこぎつけました。これにはアフリカ連合、とくに当時議長であったルワンダのカガメ大統領のリーダーシップに加え、国際機関が非常に熱心に後押ししてきたことも背景にあります。

たとえ発効しようとも大国が参加していなければ効果は減じられますが、2019年7月にはAfCFTAに消極的であった大国・ナイジェリアも署名を行い、エリトリアを除く54カ国・地域(西サハラを含む)の署名が出揃いました。

各国の批准状況

現在35カ国が批准書の提出まで終わっています。運用が開始したのに批准書が提出されていない国があるのは矛盾していますが、未提出の国は6月までに提出することになっています。

アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定の進捗状況
(2021年1月25日時点、AU公式資料および公式発表より)
アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定が実現する内容-5年で9割の品目の関税を撤廃

アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定で実現するのは、まずは関税の撤廃です。5年以内に、タリフライン(貿易品目標)の90%に該当する品目について、関税を撤廃します。後発開発途上国(LDC国)の撤廃期限は10年です。運用が開始したため、この撤廃期限は今年からカウントされます。

アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定における関税撤廃対象と撤廃期限
(AU公式資料より)    

アフリカにはすでに、COMESA(東南部アフリカ市場共同体)、EAC(東アフリカ共同体)、SADC(南部アフリカ開発共同体)、ECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)といった地域経済共同体が存在しており、地域毎に関税優遇が存在しています。既存の地域経済共同体との兼ね合いとしては、地域経済共同体における物品貿易の関税率やルールは引き続き存続し、これまでも一般のMFN税率で取引されていた物品にのみ、AfCFTAの関税撤廃スケジュールが適用されるという方針が決定されています。

このように、基本的な枠組みは決まっているのですが、ではどの品目をどのようなスケジュールで関税撤廃していくかという物品貿易における譲許表や、どの条件を満たせばその国からの輸出品として認めるかという原産地規則、サービス貿易における約束表といった、貿易を開始するならば決まっていなければならない肝心の内容はまだ合意に至っていません。各国が譲許表などを提出し、合意の後、附属書として策定される予定ですが、まだすべての国の提出が揃っていない状況です。本来ならば、それらが策定されてからの運用開始が合理的ですが、先に運用が開始されたというのが現在の状況です。

物品貿易の譲許表とサービス貿易の約束表の提出状況
(2021年1月25日時点、AU公式資料、公式発表、各種報道より)

準備が揃った国から開始することはでき、開始できた国同士からアフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定の枠組みでの貿易を開始してもよいのですが、多くの国で準備が整うまでおそらく年内はかかると思われます。その後の各国でのオペレーションの変更も踏まえると、アフリカ域内で関税撤廃への動きが目に見えるようになるにはもう少しかかると考えるのが現実的です。

関連情報:アフリカ54カ国の経済・貿易状況(アフリカ国別情報

アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定がもたらす日本企業にとってのメリット

それでは、AfCFTAの運用が実際に開始した暁には、日本企業にとって、どのようなメリットがありえるでしょうか。短期的な、関税撤廃と貿易ルールの域内共通化によるメリットについてまとめました。

なお、日本企業がアフリカでどのような事業を行っているのかについては、日本企業のアフリカ進出動向と事例からご覧ください。思わぬ企業もアフリカですでに事業を行っており、さらに製造を行っている企業さえも意外と多いことに気づかれるかと思います。

(1)アフリカで製造を行う場合

アフリカに製造拠点を保有している企業にとっては、これまでの地域共同体を超えて、市場が拡大できる可能性があります。また、AfCFTAの影響を間接的に受けて、地域共同体の原産地規則の変更や免税品目の関税撤廃などが起こる可能性があります。アフリカの工業国である南アフリカやエジプトにおいては、物流費などとの兼ね合い次第ですが、海外から輸入するよりも安くアフリカ市場に供給できる拠点になりうるでしょう。また、アフリカ域内で原材料や中間財を調達することによる製造コストの低減は、自動車や縫製品といったすでに国内でのサプライチェーン形成への取り組みが行われている製品については、後押しとなるでしょう。

貿易の仕組みが合理化されることは、アフリカから輸出を行う企業にとっても恩恵となります。さらに、域内での原料調達や、その加工や製造を域内で行うことに関税メリットがあるならば、輸出競争力も増します。ワイヤーハーネスや縫製品のような、アフリカから、アフリカ成長機会法(AGOA)や欧州経済連携協定(EPA)やEBAといった特恵関税が存在する米国や欧州に輸出するような製品や部品にとっては、欧米市場での競争力強化につながります。

(2)アフリカに輸出を行う場合

アフリカに域外から製品を輸出し販売を行う場合は関税撤廃の対象にならないことから、短期的なメリットはないですが、貿易ルールが共通化されたり、インフラの整備にはずみがつくと、輸出品をアフリカの中で広く販売できるようになり、市場の規模化が可能になる可能性があります。

現状では、地域共同体のなかであっても一つの国に拠点を構えて複数市場で販売を行うことに困難が伴っていることを考えると、メリットといえるでしょう。外資やアフリカの物流企業や流通企業の中には、これを機会としてアフリカ域内でのネットワークを拡充する企業もあると予想できるため、その物流や流通を利用することで国を超えた販売が容易になる可能性があります。

アフリカは大陸全体では13億人の人口がいるものの、1カ国ごとの人口は5,000万人程度とそれほど大きくはない国が多く、国をまたぐ物流が容易でないため、現在販売を行う場合には、1カ国ずつ拠点をつくり対応していく必要があります。アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定により複数国の市場をひとつとみなすことができるようになれば、規模の大きな市場は魅力となります。

ここに挙げたものは短期的・直接的なメリットですが、アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定が目指している、アフリカのマクロでの経済発展や競争力強化、それにともなう外部からの投資の増大は、アフリカで事業を行う企業すべてにプラスに働きます。

今後の見込み

運用が開始したアフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定ですが、想定される課題は多くあります。既存の地域経済共同体でさえ、ルールはあっても実際の運用が伴っていなかったり、港湾の混雑、道路の渋滞、通関の非効率がコストを膨らませたり、突然の政治の影響を受けたりしており、同じような課題がアフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定でも起こることは想像がつきます。

原産国での調達をしようにも調達先がなかったり、原材料はあってもその中間加工先が見つからなかったり、域内での製造サプライチェーンを組み立てるのは一足飛びには進まないでしょう。

一方で、アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定を推進する流れはとても強く、実現に向かって動いていくことは確実です。とくにこのコロナ禍によって20年にわたり成長を続けてきたアフリカ経済に影響がでたことで、域内貿易を活発化することでアフリカ経済の復活にはずみをつけたいと実施を望む声は、政府や国際機関のみならず、アフリカの経済界にも強いです。

アフリカビジネスパートナーズでは、アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定の最新の動きを追い、当ウェブサイトや、企業の方を中心に購読いただいている「週刊アフリカビジネス」にて随時掲載していきます。

※引用される場合には、「アフリカビジネスパートナーズ」との出所の表記と引用におけるルールの遵守をお願いいたします。

執筆者: 梅本優香里

アフリカビジネスパートナーズ代表パートナー

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