スポット相談
アフリカの消費ビジネスの可能性や事業を開始するための方法について、ご質問やご相談に応じます。貴社の商品やサービスにあわせてご回答します。
日本企業にとってターゲットとなる層はどの程度存在するのか
アフリカビジネスを検討する上で、人口は欠かせない要素です。前ページでは、2050年に向けて、アフリカの人口増加がアフリカ全体および各国の経済成長につながる可能性について言及しました。
このページでは、アフリカの中間層が現在どの程度存在し、アフリカの都市部ではどのような消費性向が持たれているのかについてまとめます。
(写真は南アフリカのアップルストア、ABP撮影)
アフリカ開発銀行が「アフリカの中間層のダイナミクス」として、アフリカには中間層が多く存在しているというレポートを発表したのは2011年である。貧困層にフォーカスがあたりがちなアフリカにおいて、人々を消費の重要な担い手として捉え直す視点は、当時大きなインパクトを与えた。
その算出方法は、1人の1日あたりの支出額を3つの層に分類し、それぞれの人口に占める割合を算出するというものだ。2005年の購買力平価をベースにした2008年の数値を元に算出されており、2011年に発表された。
1日あたり支出額が2ドル~4ドルの層をFloating Class(浮動層)として貧困層との瀬戸際にある層と定義し、4ドル~10ドルをLower-Middle(下位中間層)、10ドル~20ドルをUpper-Middle(上位中間層)としてこの2つを狭義の中間層としている。1日4ドル=月120ドルは、国にもよるが、ガードマンやお手伝いさんの月収に値する。都市部において消費をしながらそれなりに暮らせる最低ラインともいえる。
アフリカ開発銀行による2008年時点の数値では、狭義の中間層が人口に占める割合が20%を超えるのは、北アフリカの国々を除いてボツワナとガボンのみである。中央値は9%だ。当時は資源価格の高騰によりアフリカのGDPが急成長していたころだが、まだ都市部にもスーパーは少なく、ケニアのモバイルマネーM-Pesaは開始されたばかりだった。アフリカの消費が幕を開けた頃といえる。
アフリカ開発銀行はこのあと一度も、更新した最新数値を発表していない。世の中で公開されている「アフリカの中間層」の数値は、直近で発表されたものも含め、すべてこの2011年に発表された2008年のアフリカ開発銀行の数値をソースとしている。
あれから15年以上が経過したいま、アフリカに中間層はどの程度の人口規模で存在するのだろうか。アフリカ開発銀行が使用したのと同じソースの直近の数値を使って、最新の「アフリカの中間層比率」算出を試みた(*)のが下の表である。
「中間層人口」、「狭義の中間層人口」とも、定義はアフリカ開発銀行と同じだ。「狭義の中間層比率2008年との差分」は、アフリカ開発銀行の数値と比べて、狭義の中間層の比率がどの程度増えたか差分を表したものである。
結果をみると、南アフリカやアンゴラ、スーダンといった経済水準が進んだ国では狭義の中間層は4割を超えており、次にくるケニアやナイジェリアといった国が3割台、さらに一世代後ろにいるウガンダやタンザニアは2割台だ。北アフリカの国々は7割を超えている。コートジボワールやセネガルが5割を超えていたり、他も西アフリカの国々の数値が高すぎるとも感じるが、全体として各国の相対的な位置関係については違和感はない。
各国の狭義の中間層比率を中央値でみると40%となった。これは2008年の9%と比べて31ポイントの増加である。
どの国も増加を示しているが、かつて数値が低かった国や北アフリカの国々ではとくに大幅な増加を示している。31ポイントも増えたなら大幅な中間層の増加である。ただし、それがアフリカが「豊かになった」と言ってよいのかについては注釈がつく。次項で解説する。
関連記事:アフリカ54カ国の人口、中位年齢、都市人口と都市化、ジニ係数、中間層比率(アフリカ国別情報)
* 算出にあたってはアフリカ開発銀行のレポートと同じソースを用い、同じ算出方法で計算をしているものの、アフリカ開発銀行は最終数値に調整を加えておりその調整の内容や方法を明らかにしていないため、若干の齟齬が生じる。また、購買力平価の値は共通して2017年を用いたが、元データの「直近」の時期は国によって2011年から2019年までばらつきがある。アフリカ開発銀行のレポートと同じソースを用いているため、ソースの収集方法や集計方法による不備や為替の影響による正確性の限界は同様に存在する。
経済において中間層の存在が重視されるのは、富や社会保障財源を生み出す安定した経済基盤の担い手となり、また消費生活を営むことから消費を拡大させるからだ。日本の中間層比率は80年代は60%を超えており、いまは50%台である。雇用され安定収入を得た中間層による活発な消費活動が、他の要因とあいまって日本の経済成長を促したとされる。
ただし、日本の中間層比率の根拠であるOECDが定義する「中間層」とは、その国の等価可処分所得の中位所得75%~200%に収まる層を呼ぶので、固定の支出額で算出しているアフリカ開発銀行のいう「中間層」とは定義が違う。また、「中間層」でイメージされる活発な消費者を特定するのに、アフリカにおいて支出金額のみで分類することが現状を正確にあらわしているかというと、留保がある。
アフリカの多くの家庭では、家計がはっきりしない。日本のように毎月の所得が決まっていて、それを元に支出を割り振っているわけではないからである。毎月の所得が決まっていないのは、ひとつはインフォーマルセクターとよばれる自営業や副業、農業を営む人が多いからであり、拡大家族の間で贈与がゆきかっているからでもある。自分で複数の商売を掛け持ちし生計を立てている人や農家のように収穫に左右される人の所得は一定にならず、記録にも残らないため、雇用による給与以外で得た所得というのは捕捉するのが難しい。また、いとこや遠い親戚も含めた拡大家族のなかにだれか所得がある人がいれば、それを融通しあうので、使う必要があればあとから金額が集まってくる。支出が先で所得が後なのだ。所得だけでなく購入した商品も共有するため、誰の支出であるかはあいまいで、「一人あたり」の算出も難しい。
中間層のみならず、「貧困層」の定義にも気をつけなければならない。アフリカの人口の半分以上は農村で暮らしており、自給自足のために農業を行い余剰分のみを販売する、商業化されていない小規模農家が多くを占める。彼らは畑と家畜で食料をまかない、家族や近所で物を交換し、自分で家を建てる。消費を生活の基盤におかず、現金を多くは必要としない生活をしている。よって、支出額をベースに分類すると、おのずから貧困層に分類されてしまう。
電力や水道が整備されていない農村で、急な病気にも現金がなく治療ができない生活は決して豊かとはいえず、解決が必要であるには言を俟たないが、すべての人が「貧困層」という言葉でイメージされる、生活に窮しいまにも命が脅かされるような状態かというとそうではない。アフリカにおいて農村部は都市部のセーフティーゾーンにもなっており、2020年にコロナで雇用を失った人が都市に大量に発生したときは、多くの人が実家の農村に帰り急場をしのいだ。農村ならば収入がなくとも食べて生活するにはひとまず困らないからだ。付け加えると、農村では日常的な支出額は少ないものの、収穫が入ればそこから中古のバイクを買い、スマホを買い、テレビを買う。
つまり、支出を用いて算出されたアフリカの中間層とは、日本の高度経済成長を支えたサラリーマン家庭のような人たちではなく、貧困層とは、スラムに住む苦しい生活をしている人だけを指しているのではないということだ。
さらにいうと、中間層の定義は支出に依るのだから、農村で自給自足の暮らしをしていた人が消費をしないと生活ができない都市部に移動すると、暮らしぶりがそれほど変わっていなくとも支出が増えることになり、中間層に近づく。たとえばいままで農村で十分食べることができていた人が都市にきて、限られた支出で不十分な食事をしていても支出の増加になる。その国のGDPを増加させこそすれ、中間層が増えることは人々の生活が豊かになったことを直接的には意味せず、消費に基盤を置く生活をしている人が増えたことを意味しているといえる。
そうなると、中間層の増加には都市人口の増加が大きく関わっていそうだ。実際、アフリカ開発銀行の数値が算出された2008年には3億8,000万人だったアフリカの都市人口は、2020年には5億9,000万人と、55%増加している。狭義の中間層比率と都市化率を比較すると、おおむね都市化が進む国では中間層比率が高いといえそうだ。
アフリカ54カ国の中間層比率と都市化率
この15年で、実際のところ、アフリカの中間層は増えたのだろうか。弊社が創業した2012年は、アフリカ開発銀行のレポートが発表されたのとほぼ同じ時期である。その頃からアフリカ各国を歩き、住み、都市で、農村で、ハードに現地の人々の家計調査や生活実態調査といったフィールドワークを行ってきた経験からすると、アフリカも少なくとも都市部に限っては、この15年でより消費に頼った生活へと移行しているといえる。消費を行う人が増え、またその水準も上がっているのは実感として目にしてきたことである。
アフリカの多くの国では、30年ほど前から初等教育の無償化が始まった。いまでも農村に住む40歳以上の人には字が読めない人も存在するが、その下の世代となると、どんな農村に住んでいてもほとんどの人は教育を受けており、字が読める。字が読めればインターネットを通じてどこにいても世界と同じものを見ることができる。
2008年にはアフリカ各国のインターネット普及率は10%に満たなかったが、2022年のいまは中央値で40%に近い。携帯の普及率も44%だ。インターネットの普及は生活に消費を入り込みやすくする。農村の若者には欲しいものを都市からeコマースで取り寄せる者もいる。農村でも都市でもインスタグラムやTikTokをみて同じ商品知識、同じ消費スタイルを知り、これまでは買わずに済ませていたものを買うようになっている。
初等教育の普及だけでなく、教育の高度化もまた、消費を促進する要素である。親は無理をしてでも子どもを大学までいかせようとするようになり、都市部を抱えるアフリカの国では大学進学率が上昇している。教育が高度化すると、情報感度が高まる。高い教育を受けた都会生まれの若者たちは、消費への感度も高い。これまでは昔から家族で行く店や飲食店が行動範囲だったが、外から情報を得た場所にでかけるようになる。伝統的に買われていたブランドを買うだけでなく、商品を判断する目をもち、自分で選ぶことを良しとする人も増えた。
ビジネスに限っていえば、知りたいのは買い手や顧客となってくれるターゲットの人口がどれくらいいるのかということだ。その観点からすると、アフリカではこの15年で、都市に住む人口は増え、インターネットと教育はアフリカの人たちの消費性向を高めた。中間層が30ポイント増えたといっても違和感がない変化は実際に起こっている。
関連記事:アフリカ54カ国の中間層比率、ジニ係数、人口、都市化率・都市人口、中位年齢(アフリカ国別情報)
アフリカの消費性向がある中間層の人たちに対してビジネスを行いたいとして、買い手や顧客となってくれるターゲットは、実際どのような人たちなのだろうか。ビジネスに活用するなら、「中間層」が具体的にどのような生活、行動をとっている人々を指すのか、紐づけるところから始めるべきだ。人々の実際の暮らしぶりを見ていこう。
弊社は7年ほど前から、アフリカ各国の都市部の「社会経済階層」の分類を行っている。地道に各地で消費者と会って、家庭を訪ねて、調査を積み重ね、詳しい生活ぶりや家計とその背景、消費の実態を無数に比較分類することで、全体像と詳細の両方を把握し検証を重ねてきた。定性的な性格が強い分類ではあるものの、事業を検討する最初の段階で消費者像をおおまかに理解し、自社の事業のターゲット人口がどの程度いるのかを把握するには役に立つかと思う。
この社会経済階層はアフリカの主要都市について作成しているが、ケニアについてのみ公開する。ちなみに社会経済階層は、前述の中間層比率の算出よりも5年以上前に作成したものだが、ケニアの中間層の比率は偶然同じ30%となった。ただし社会経済階層は都市住民のみを対象としているから、ケニア全国の中間層比率として算出した34.4%が正しければ、都市にはもう少し多い中間層が所在していることになる。
ケニアの都市人口は1,500万人、そのうち首都ナイロビとその近郊のナイロビ首都圏に930万人が住む。便宜的に、3つの階層を富裕層、中間層、貧困層と呼称している。なお、ケニアのジニ係数は40%とアフリカのなかでは中位に位置している。
収入や資産の基盤を持ち、日本の平均年収家庭と変わらない、またはそれ以上の生活をしているのが富裕な10%の人たちである。消費において利便性を好むのはこの層のみで、選択肢の多さを良しとするのもこの層のみだ。情報感度が高く、商品の価値を自分で判断する。ブランドや成分などにこだわりを持ったり、海外サイトから購入するようなこともある。新しいサービスは試してみる。
日本の市場や商品との親和性・類似性がもっとも高い層である。日本企業が日本での経験から「中間層」といったときにイメージしている購買行動や商品選択は、この層のものであることが多い。
貧困層は、定期的な収入がないか、あっても脆弱な収入基盤であるため、価格が安いというのがなによりも最大の訴求点となる。端から見ると彼らの生活を改善するためのサービスを提供したくなるが、そういったベネフィットは、価格の前には魅力にならない。消費において失敗をしたくないため、新製品より、昔から人々が買っている評価が定まった商品を買いたい。この層の人たちに商品を使ってもらうためには、安く作り、手にとってもらう機会を作り、彼らが使っているチャネルで販売ができるよう、企業側の努力が必要だ。
30%の中間層は、消費をわくわくするものや楽しいものとして捉えはじめる層でもある。SNSや検索で新しい消費スタイルを知ったり、いろんな商品を知るのを楽しいと感じる。近年ケニアのスーパーマーケットがターゲットとしているのはこの層で、中間層が住む居住地近辺の出店を積極的に進めている。
スマートフォンを持ち、部屋のインテリアを整え、身だしなみに気を使って社交し、即席麺やワインを喫食し、ファストフードを食べ、子ども向け製品や教育にお金をかけ、自家用車を持っていることもある。日本の製品が得意な、品質や利便性を重視したものにも関心を持つ。ただし、この層が出せる金額には上限があり、妥協を行っている。なので割賦販売が有効なのはこの層だ。彼らの限られた支出金額のなかで、他の商品カテゴリーや競合の商品よりも優先度を上げてもらうためのアプローチが必要である。
ケニアのスーパーマーケットの普及率は4割程度で、中間層の人たちもまだ伝統的小売や青空マーケットで買い物をしており、それを好んでもいる。スーパーの棚を確保し日本の製品を置いたからといって中間層の人に届くわけではない。しかし、チャネル設定を間違えず、販売方法や商品に工夫を凝らせば、関心をもってもらい、選んでもらえる可能性がある。そしてこの層に選ばれれば、その商品は次なる「評価が定まった商品」になっていくはずである。
なお、弊社がクライアント企業に対してビジネスの検討や戦略の策定を行うときは、この分類にその業界や商品の特性を加えて調整を行っている。また、3つの層をさらに細分化したものを使用している。
アフリカの中間層は増えているのか。この問いに対する答えはイエスだ。まだ中位年齢も低く人口ボーナス期を迎えていないアフリカの経済成長は理想よりもゆっくりだが、消費生活を営む人々の層は確実に厚くなっている。では、そうやって中間層が増えれば自動的に日本の製品が売れるのか。それに対する答えはイエスではない。しかしやりようはあり、その工夫をした企業が、アフリカの今後の人口増加の果実を得ることができる。
アフリカの中間層や消費ビジネスについてのご質問や調査のご依頼※引用される場合には、「アフリカビジネスパートナーズ」との出所の表記と引用におけるルールの遵守をお願いいたします。リンクはご自由にお貼りください。