都市化進むアフリカ、期待は内需の長期的成長

アフリカビジネスの2016年予測

都市化進むアフリカ、期待は内需の長期的成長

アフリカの2016年の経済とビジネスを予測しました。

2016年の予測、3つのポイント
  • アフリカの主要地域では都市化が進み、人々の生活が豊かになった。内需の長期的成長が見込める。
  • 世界経済の動向はアフリカにとってマイナスであるものの、産業構造や発展段階、政治体制の違いから、国によって影響の受け方は多様。
  • 日本の方法の延長戦上ではなく、世界の動きを見て事業をつくっていく経営力がカギとなる。

資源のみならず内需で成長

アフリカの場合、予測より先に、現状を説明する必要があるだろう。なお、本記事では断りがない限り、北アフリカ以外のサブサハラアフリカについて言及する。

アフリカの経済は2000年代になって海外からの直接投資が急増し、成長基調に入った。背景には、資源・一次産品の需要増大と金融緩和による金余りといった「ラッキー」だけでなく、アフリカ自身の政情の安定と、事業環境の改善があった。

そのため、資金の流入先は、石油・天然ガスといったアフリカの伝統的な資源輸出産業だけでなく、不動産・建設や運輸・物流、通信、小売り、消費財、金融サービスといった、内需産業にも向けられた。

2000年以降急激に伸張したアフリカ向けの海外直接投資は、残高(2012年、サブサハラアフリカのみ)のうち、一次産品産業の割合は35%に過ぎず、製造業が20%、サービスが45%となっている。アフリカの経済は多様性が増し、足腰は強くなっている。

図1)実質GDP成長率比較

実質GDP成長率比較

図2)海外直接投資額の推移

海外直接投資額の推移

内需産業への資金の流入は、都市化を進め、人々の生活スタイルを変えた。道路が整備され、物流が改善し、自動車が普及して人々がスーパーで買い物するようになった。

また、電力供給が増え通信設備も整備されて、携帯で送金し、スマホでフェイスブックをやり、家には冷蔵庫と電子レンジと洗濯機がそろった。銀行はリテールに力を入れ、人々はデビットカードを持ち、ローンで買い物をするようになった。

アフリカには現在、100万人以上が住む都市が44あり、人口は今も増えている。貧困層だろうと、都市で暮らす限りお金を使わなければ生きていけず、人々が「明日は今日よりも良くなる」と信じている成長ムードの中、その消費意欲は旺盛だ。

私はケニアのスラムに定期的に通っているが、スマホもデビットカードもインスタントラーメンも普通に見かけるようになってきている。アフリカ全体でみた都市人口比率は4割近い。

ドローンもUber(ウーバー)もAirbnb(エアビーアンドビー)も、新しいサービスは世界とほぼ同時にアフリカでもローンチされるようになってきた。

国で異なる産業の特徴

ただ、国によって産業構造や発展段階は大きく違う。個人消費が伸び都市型の内需産業が育っているのは、南アフリカ、ナイジェリア、ケニアといった国だ。周回遅れでタンザニア、ウガンダ、コートジボワールなどが続く。

図3)アフリカとアジアの主要国ひとりあたりGDP(ドル)

アフリカとアジアの主要国の一人あたりGDP(ドル)

2012年のIMFのデータによると、ナイジェリアの1人当たりGDPはインドより大きく5500ドルを超えており、ケニアはカンボジアと同レベルにあった。

ナイジェリアは産油国でもあるが、1億8000万人の人口を背景に、製造業や流通業が形成されつつある。食品や飲料、石鹸や化粧品などの化学品、砂糖や小麦、セメントは国内の工場が強い。

2013年には完成車の輸入関税が政策的に引き上げられたため、世界の自動車メーカーがナイジェリアに自動車組み立て工場をつくる動きが加速。日本勢では、日産、ホンダ、三菱、いすゞがすでに生産をスタートまたは開始することを発表している。

ケニアは東アフリカの玄関口となる港を持ち、物流と小売り・流通が発達している。中間層の人口比率は半分近く、内需向けの現地製造業が存在している。

携帯の保有率は88%。アントレプレナーシップが高い国民性と相まって、はやりのフィンテックやエデュテック、ヘルスケアテックの事例は捨てるほどある。個人購買力とインターネットの普及、そして物流機能が成立条件であるeコマースが、アフリカで軌道に乗っているのも、ナイジェリアとケニアの2カ国だ。

南アフリカは、BRICSに後から「S」として追加されたアフリカの経済大国だが、ここ7年ほどは低成長が続いている。

発電設備への投資の遅れや金融政策の失敗により、産業が冷え込んでいる。南アフリカの企業は、生き残りのためにナイジェリアやケニアへの「アフリカ進出」を積極的に進めているくらいだ。金融やビジネスサービスが充実しているため、アフリカビジネスを行う多国籍企業の拠点として機能している。

一方、1人当たりGDPが高くとも、一次産品への依存度が高く産業構造が脆弱(ぜいじゃく)な国もある。赤道ギニア、コンゴ共和国、アンゴラ、ガーナ、ザンビアといった国は、原油や石炭の輸出以外の産業が育っていない。

エチオピアは、アフリカの国の中ではユニークな存在だ。アフリカの大半の国の最低賃金は100~150ドル水準と高いが、エチオピアは輸入制限を行い自国で供給を賄ってきた社会主義時代の名残で、人件費が安い。

バングラデシュの賃金が月100ドル近くまで上昇している中、エチオピアは月50ドル程度なので、エチオピアを輸出製品の製造拠点としようとする動きがある。

人口9600万人を抱え、ナイジェリアに次ぐ人口大国でもあるため、個人購買力はまだ低いものの、外資消費財メーカーによるエチオピア国内市場のシェア競争はもう始まっている。

関連記事:アフリカ主要26カ国の経済指標や事業環境(アフリカ国別情報

将来予測と2016年

マクロでみると、現在の世界経済の情勢は、アフリカにとってはマイナス面のほうが大きい。資源価格の下落、金融引き締め、中国の景気後退は、特に原油輸出とドル建ての資金調達に依存してきた国にとっては、輸出減、外貨準備金減、自国通貨下落、財政収支悪化とバッドサイクルが回ることが予想され、厳しい局面を迎える。

アフリカには、ナイジェリア、ケニアと近隣国、サハラ地域の3エリアに複数のイスラム過激派組織が存在しており、ISIL(イスラム国)との接近も懸念されている。ただ、テロよりも政治リスクのほうが、経済にもっと大きな影響を与える。

南アフリカ停滞の原因は、外部環境以前に内部にある。現政権は、アパルトヘイトを終結させた政党としてポピュリズムによらなければならなかった。そのつけが今、回ってきている。現政権が今年、課題を解決できるか。無理だろう。南アフリカの経済は上向かず、製造業にとって厳しい状況が続くだろう。

ルワンダ、ウガンダ、エチオピアといった、独裁的な政権であるがゆえに経済成長を成し遂げてきた国々の政治的均衡は、経済がより成長し個人が力を持つと危うくなるかもしれない。

ルワンダは早々と憲法を改正し現大統領の再選を可能に、つまり権力を延命したが、ブルンジ、コンゴ民主共和国という隣り合った、同じく大統領の多選問題を抱える国の2016年の動き次第では、火種が飛んでくる可能性がある。

2015年、平和裏に選挙を乗り切ったナイジェリアとコートジボワール、タンザニアが政権をうまく運営できるだろうか。

特にナイジェリアは、大方の予想を裏切りスムーズな政権交代を成し遂げたものの、大統領選前の2014年、選挙と組閣で終わった2015年のほぼ丸々2年のあいだ政治が停滞したところで、原油安と米利上げのパンチを受けている。

今のところ新政権への評判は上々だが、政治が混乱すると投資が引き揚げられ、あっという間に経済が崩れてしまうのは、これまでアフリカが経験してきたことだ。

一方で、これまでのアフリカと違うのは、急激な成長を経て、アフリカの内需の強さへの期待がある点だ。内需は相対的にマクロ経済や政治リスクの影響を受けづらい。

また、今、海外からアフリカへの投資でホットな分野は、発電とグリーンエネルギー、港湾、鉄道などのインフラと、小売り・流通、自動車や食品などの製造業、金融サービスといった内需に関連するもの。これらは、インフラはもとより、内需についても、もともと短期でのROIなど期待されていない。

世界の消費財企業が先を争ってアフリカに投資しているのは、消費財やサービスはブランドをつくり、国の津々浦々まで流通させるのに、時間がかかるからだ。

そして、先に築かれたブランドを崩すのは、アフリカの場合は特に、容易でない。ファーストムーバーが強い世界だからこそ、20年先をみて、現地で受け入れられる商品に改良し、農村部まで伸びるアフリカの複雑な流通を押さえにかかっている。

現地の優良企業や良いネットワークは取り合いだ。将来に向けた覇権争い、椅子取りゲームに勝つために今、投資が行われている。

また、現在アフリカに直接投資を行っている国は、いわゆる先進国ばかりでない。インドや中国をはじめとする東~南アジアの国々や、UAE、トルコなどの存在感が増している。近年のグリーンフィールド投資額の半分はこれらの国によるものだ。

資源だけでなく、投資国も投資先も分散されてきており、長期をにらんだ投資が行われていることから、世界経済の影響による変動はあるとはいえ、広義の内需関連に対する投資は引き続き継続し、資金の流入は続くと思われる。

また、原油安は、アフリカにも存在するケニアなどの石油の輸入国にとっては、逆に内需への追い風となる。

個別の産業では、自動車産業に注目したい。自動車は2015年、大きな動きがあった。

1つは前述したナイジェリアの生産拠点化。アフリカにおいては南アフリカが自動車生産の中心地で、グローバル生産の拠点として、トヨタ、日産などを含むほぼすべての世界の自動車メーカーが工場を持ち、部品メーカーも集積している。

関連記事:日本企業はアフリカのどの国で自動車生産を行っているか(アフリカの自動車生産の概要

ナイジェリアは現時点であくまで内需向けでかつ組み立て生産ではあるが、自動車産業の波及力は強く、将来のナイジェリア製造業発展の端緒になり得る。新政権が軌道に乗り適切な産業政策を行うことができれば、2016年は自動車のみならずほかの製造業へも投資が増えるだろう。

もう1つは、エントリーユーザー向けの安価な新車がアフリカで販売されつつあることだ。アフリカを走っている車の大半は日本車だが、9割方輸入中古車である。

日本の自動車メーカーは新車のSUV車などを政府向けなどに販売するのが中心で、これまで一般消費者向けには車を売れてこなかった。人々が新車を買い始めるタイミングが近づいてきている中、2016年は市場シェアが大きく変わるきっかけの年になり得る。

日本メーカーにとっては、これまで中古車で培ってきた信頼とブランド力を新車マーケットにつなげていけるか、横入りしてきた安価な新車ブランドに奪われるか、勝負のしどころだ。

日本企業のアフリカビジネス

アフリカで、日本企業のプレゼンスは、「トヨタ」を除いてほとんどないと言っていい。アフリカの人々における「日本」という国へのイメージはとても良いが(「テクノロジーが発展した経済大国」「ディシプリンの利いた謙虚な人々」など)、具体的なことは何も知られていない。なにしろナマの日本人が周囲にいないのだ。

以前南アフリカで、国籍を尋ねられたことがあった。日本人だと答えると「嘘だ」と言う。「だって君の髪は黒いじゃないか。自分は日本人をたくさん知っている。日本人の髪の色は茶色だ。2010年に日本戦のスタジアムで見たんだ」。当時、サッカーファンはほとんど茶髪にしていた。日本への理解はこの程度である。

日本企業は素晴らしいと言う人に、具体的にどんな日本企業を知っているかと聞くと、まず「トヨタ」と答える。「トヨタの車は素晴らしい」。「ほかは?」と聞くと、次に出てくるのが「JICA」だ(企業じゃない)。3番目はない。

アフリカにおける日本企業の拠点数は現在657拠点、在留邦人の数は8050人(外務省、いずれも北アフリカを含む)。ここ数年で増えたとはいえ、諸外国と比べても、他地域の日本企業の数と比べても、小さい。在留中国人は100万人といわれる。

関連記事:日本企業のアフリカ進出動向と事例

日本企業にとってアジアでのビジネスと大きく違う点はまずそこだ。日本の大企業の看板をもってやってきても、知られておらず、実利を示さなければ相手にされない。

現地にいる日本企業の集積も薄く、日本企業間で成立するビジネス、また日本企業とともにやればいいビジネスは少ない。それぞれの企業が現地の企業とコミュニケーションをとって、一から事業をつくっていかなければならない。

おまけに、どの分野もたしかに需要は強いが、参入企業も多く、ブルーオーシャンと浮かれていられるような状況では決してない。

加えて、3年や5年の短期で回収が見込めるものでもなく、遠い将来のために、最終的に儲かるかもわからない事業に張っていかなければならない。

ちなみにアフリカでの日本企業の成功事例と言われる味の素のナイジェリアが、黒字化するまでにかかった期間は10年。それでも不確実性が高いナイジェリアに張り続けた。

「選択と集中」や「投資効率」をこの20年追い求め、確実性を重視した経営をしてきた日本企業にとって、距離よりも言語よりもアフリカビジネスを難しくしているのは、この点だと思う。

アフリカは今はまだ、自社のこれからと世界の動きをみて将来戦略を描くことができ、日本でのやり方の延長線上ではなく事業をつくっていくことができる経営力をもった企業のみが事業を成立させられる段階にある。大企業か中小企業かは関係ない。

アフリカは、「最後のフロンティア」と呼ばれることがあるが、日本企業にとっては、今までのやり方を延長した先にある市場とはならないと思う。むしろ、このまま日本のルールの延長線上での成長を目指すのか、世界のルールで動く企業に変わっていくのか、踏み絵を迫られる「最初のチャレンジ」の場所だと言えるだろう。

(この記事は、2016年1月9日にNewsPicksに寄稿した記事の再掲です)
※引用される場合には、「アフリカビジネスパートナーズ」との出所の表記と引用におけるルールの遵守をお願いいたします。

執筆者: 梅本優香里

アフリカビジネスパートナーズ代表パートナー

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