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アフリカビジネスの今

ケニアの流通業、急速進化中

「世界のスーパーマーケット」が変える東アフリカ経済圏

更新日:2015年07月29日

カテゴリー:論考・コラム

アフリカビジネスパートナーズ 梅本優香里


「最近のケニアの若い人のこと、『スイッチ世代』って呼んでいるのよ。PCや携帯のボタンを押すみたいに、なんでもすぐに解決できると思っているんだから。彼らは待つことをしないわね」と友人のケニア人女性(60代)。ケニアの都市部のライフスタイルは、携帯が爆発的に普及し出した2006年頃を境に、大きく変化してきた。

朝から晩まで効率的にスケジュールを組んで予定を詰めこみ、情報は何でもスマホで検索する。早朝からジムで汗を流し(ダイエットに励む人が多い)、オンラインデリバリーで注文した昼食をデスクで食べ、eコマース(昨年一気に普及した)で買い物をして、オーガニックレストランで食事をし、24時間オープンのコンビニエンスストアで朝食を買って帰る。


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ケニアのコンビニエンスストア店内。レジ横では日本と同じようにドーナツやコーヒーも売る


公共料金は携帯電話から「M-pesa(ケニア発のモバイルペイメント)」の簡単な操作で支払って終わり。ニューヨークかロンドンかと思うようなライフスタイルが、ナイロビでも広がっている。

ICT産業の成長は、このような新しい産業を作り出しただけでなく、企業活動の生産性を上げ、外国からの投資をさらにケニアに呼び込むきっかけとなった。投資が都市に人を集め、人の集まるところにビジネスが起こり、都市化がさらに進んだ。

ケニアには首都ナイロビだけでなく、地方にもモンバサ、マチャコス、キスム、ナクルなどといった都市が複数存在する。ここ5年でバイパスや国道の整備が格段に進み、地方との距離は縮まり移動が本当に楽になった。畑と小さな町が続く道をいくつか超えると、突然、ナイロビと同じスーパーマーケットのチェーン店やショッピングモールが現れる。

代表的な5大スーパーチェーンの中には、日本でいうGMS(総合スーパー)から都市型小型スーパーの形態まで存在し、同時に日本が辿ってきたような、専門店化も進行している。テレビやパソコン、携帯電話や白物家電を扱う家電専門店や、サプリメントや健康グッズも集めたドラッグストアが典型だ。スーパーマーケットと専門店、映画館、ファーストフードなどを取り揃えたショッピングモールも増え、いまやケニア全域で64モールが存在する。そのうち29がナイロビに、35が地方都市にある。
 

ウォルマートも地場スーパー買収に動く

ケニアは他のアフリカ諸国と比べて、小売り市場全体に占めるスーパーマーケットの売上高比率が高い。経済規模がケニアより大きいナイジェリアは伝統的な小規模店舗が中心で、スーパーの売上高は全体の2%に過ぎない。それに対し、ケニアでは30%がスーパーマーケット経由だ。これは、サブサハラアフリカでは南アフリカに次ぐ大きさである(ニールセン調べ)。インド商人が1980年代に始め、長い歴史を持つのがその1つの理由だ。地方でも都市部では、人々は伝統的な小規模店舗と合わせて、スーパーマーケットを利用している。

ケニアの5大スーパーマーケットが東アフリカ各国に展開する店舗数
(2015年6月現在。アフリカビジネスパートナーズ調べ)
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スーパーマーケットチェーンの拡大は国境も超えている。インフラの整備や周辺国の都市化の進展を背景に、東アフリカ一帯にケニアのスーパーマーケットの店舗が展開されはじめた。最大手の「ナクマット」とナイロビ証券取引所上場企業である「ウチュミ」は、ウガンダ、ルワンダ、タンザニアのすべてに店舗を持つ。ケニアをハブとして、東アフリカの国々にモノが流れる「ケニア経済圏」とでも呼べる流通網が、出来上がりつつある。

ナイロビ市内のスーパー店内。バラエティに富む商品が所狭しと並ぶ様子は、日本のスーパーやモールと変わらない。この動きを見逃さないのが、外資の小売業だ。中間層の人口が既に半分を占めるケニアで、流通の近代化はこれからも必ず進む。将来の大きな果実を手にしようと、買収話が加熱している。小売業世界一の米ウォルマート・ストアーズは、ケニアで4番目に店舗数が多い「ナイバス」に対し、何年も買収交渉を続けてきた。先日は小型スーパーを展開する業界5位の「ゥクワラ」が、ボツワナのスーパーに買収されたばかりだ。
 

流通の進化が「メード・イン・ケニア」を育てる

既にケニアのスーパーマーケットの業態や商品構成は、先進国のものと大きくは変わらない。一般的にアフリカのスーパーマーケットでは輸入品の比率が高いが、ケニアでは国内生産した商品も増えている。例えば前のページの写真に見える紙おむつ。輸入品のパンパースとトルコ製製品の横に並ぶのは、ケニアの化学品メーカー「インターコンシュマープロダクツ」社がケニアで作った紙おむつだ。

市場の成熟・拡大は、現地の製造業の機会も広げる。ちょうど先週、ケニアで組み立てられた初の国産PC、TAIFA(スワヒリ語でNationalの意味)も発売されたところだ。

どこかで見たことがあるようなロゴではあるが、4GBのRAM、500GBのハードディスク、Corei3を備えた本格派パソコンからは、「世界のスーパーマーケット」の魅力をテコに、国内製造業を発展させようという意思を感じる。ケニア随一の工業地帯、インダストリアルエリアを歩くと、食品加工から化粧品、プラスチック製品まで、あらゆる消費財の製造業が集まっているのが分かる。ネスレやユニリーバの工場に混ざり、国内メーカーが存在感を示している。


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ケニアの工業団地。手前はネスレの工場の看板、後ろはケニアのテキスタイル工場


スーパーマーケットの発展は、農産物の流通にも影響を与えた。スーパーに並ぶ野菜、肉、牛乳は国産品だ。肉も牛乳も、「ファーマーズチョイス」や「ブルックサイド」といったケニア大手食品メーカーが、国内の小農から生産物を集めた上で加工して、スーパーに卸している。

「ナクマット」と「タスキーズ」に青果を卸している「フレッシュアンドジューシー」は、8割の野菜と果物をケニアの小農から調達している。農村では1エーカーしか持たない小農にも、スーパーのバイヤーがやってくるのを見かけるようになった。農家にとっては安定的な販売先の選択肢が増えたことになる。スーパーマーケットの存在が、消費財から農産物まで輸入品に頼りがちだったケニアで「消費の自給自足化」を進めたとも言える。

5月末にナイロビ郊外に開設された5万平方メートル規模の新しいショッピングモールには、ウォルマート系列の南アの「マスマート」がスーパーマーケットを出店した。小売業世界2位の仏カルフールも、中東のフランチャイジーを通じたナイロビへの初進出を発表済みだ。

こうした状況を受け、ケニア人は若干自嘲気味に、「ケニアは世界の工場ならぬ、『世界のスーパーマーケット』だ」と言う。正直、「世界の」という冠をつけるほどの実態はないと思うが、増え続ける都市の購買力を期待して、消費ビジネスが世界中からケニアに流れ込んでいるのは事実だ。消費ビジネスを支える流通もまた、世界から注目を浴びている。


PBもネットスーパーも

スーパーマーケット間の競争が厳しいことから、次々と新しい試みが生まれている。「ナクマット」は2013年から、プライベートブランド(PB)商品の販売を開始した。砂糖、粉類、ミネラルウォーター、化粧品から洗剤、トイレットペーパーまで、国内の製造業からバルクで購買し、リパックの上、安価で提供している。

初年度の売り上げは20億ケニアシリング(約25億円)に上り、コスト高になりがちな国産品を人々へ安価で提供することに成功している。Eコマースが流行るとどこも、ネットスーパーを運営し始めた。店内調理の惣菜コーナーやインハウスベーカリーは、料理の手間を省きたい人や、できたての商品を買いたい人でいつも行列となっている。


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店内調理の惣菜売り場。ご飯、ウガリ、チャパティ、肉料理やシチュー、野菜炒めにフライドポテトなどが並ぶ


「東アフリカ共同体(EAC)」のメンバーであるケニア、タンザニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジの5カ国では、関税免除など域内の貿易自由化が進められている。この5カ国の人口をあわせると1.5億人。日本と同様のサイズの市場が出来上がる。とはいえ、これまではモノや人が動いているといってもインフォーマルな動きが中心で、日本企業が効率的に管理できる形で国を超えて商品を流すのは難しかった。近代的な企業が同じ商習慣で域内に展開するケニアのスーパーマーケットの存在は、これを変えようとしている。

ただし、ひとことで東アフリカといっても、国によって市場の成熟度は全く違う。商品の水準、バラエティ、パッケージのレベル、人々の消費志向を比較すると、ケニアとタンザニアでは5年以上の差が、ウガンダやルワンダはそれ以上の差があるように見える。


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スマホへの買い替え客で混み合うタンザニアの携帯ショップ。
タンザニアではケニアから4年程度あとのいま、スマホブームがやってきた


もっと言えば、同じ東アフリカといえども、国民性や行動様式は大きく違う。関係性の深さもさまざまだ。ケニアのスーパーマーケットによるウガンダへの出店数が多いのは、輸送の利便性や経済的な関係の深さゆえだ。ケニアからウガンダへと内陸に向かうルートは整備されているが、ケニアからタンザニアへはキリマンジェロを超えてモノはなかなか流れない。ケニアとウガンダではお互いを兄弟のような似たもの同士だと思っているが、ケニアとタンザニアは昔から、東京と大阪のように犬猿の仲だ。

余談だが、同じ東アフリカに分類されることが多いエチオピアは、ケニアと地続きにあるが、両国を行き来したことがある人はほとんどいない。日本人である筆者が、エチオピアにいるとエチオピア人からケニアの様子を聞かれ、ケニアにいるとケニア人からエチオピアについて探りを入れられるくらいだ。
 

日本企業の現地化への入り口に

国家間の格差が同一市場化を阻む背景には、内陸輸送費の高さと、現地製造業の生産性・集積度の違いもある。同じ商品でもケニアからウガンダ、ルワンダと内陸に行くに連れて価格が上がり、商品の種類が少なくなる。アフリカビジネスパートナーズが行った小売店調査によると、パンパースの紙おむつ40個入りは、ケニアで1131円、ルワンダでは2倍の2231円だ。

サムスン電子の46インチ液晶テレビの価格は、ケニアで10万5千円、ルワンダでは15万4千円になる。ソニーのテレビの品揃えは、ケニアでは14種類、ウガンダは8種類、ルワンダだと4種類だ。各国が現地メーカーから調達していて、ナイロビから運んでいるわけではない牛乳でも、500mlミルクがケニアでは78円、ウガンダでは111円、ルワンダでは118円。ウガンダ、ルワンダはケニアほど製造業が発展しておらず、価格の違いに生産性の違いが現れている(以上データは2014年12月時点)


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スーパーの棚に見られるホーユーのヘアカラー剤(中段)。
アフリカといえば小袋での販売が語られがちだが、下段に見られるようなタンクに入った大容量商品も人気だ


日本の商品では、日清食品のインスタントヌードルや、味の素のうま味調味料、ロート製薬の消炎鎮痛剤、ホーユーのヘアカラー剤などが、東アフリカのスーパーマーケットの店頭でよく見られる。馴染みやブランド認知が購買に影響を与え、人々の価値観や行動様式に沿うことが必要な消費財ビジネスは、一般的に地場の企業や流通に利がある。現地で知られていない無名商品でも納入が可能で、店頭でのマーケティングで認知を広げることができ、地場でありながら近代的な面ももつケニアのスーパーマーケットは、外国企業にとっては現地化へのギャップを埋める存在であり、認知を獲得する方法であり、伝統的な小規模店舗への入り口になる。

陣取り合戦ならぬ棚取り合戦、人々のマインドシェアの獲得合戦は外資企業・現地企業が入り乱れて始まっている。消費行動も市場の成熟度も違う国をつなげながら、人口1.5億人の東アフリカ市場を同一市場化していく流通に、日本の商品をどれだけ載せていけるか、今後が期待される。


(この記事は、2015年6月23日に日経ビジネスオンラインに寄稿した記事の再掲です)
※引用される場合には、「アフリカビジネスパートナーズ」との出所の表記と引用におけるルールの遵守をお願いいたします。

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