「ナイジェリアのアマゾン」が開放するアフリカの小売り

eコマースがようやく離陸か

「ナイジェリアのアマゾン」が開放するアフリカの小売り

ナイジェリア発の2つの企業が注目を集めている。JUMIA(ジュミア)Konga(コンガ)という、ナイジェリアの若者が創業したeコマースサービスを提供する企業だ。

JUMIAのeコマースサイト

Kongaのeコマースサイト

アフリカにおいて、携帯電話やウェブは、もうすっかり日常になった。いまやスラムに住む若者でもスマホを使っている。携帯普及率は80%に及び、「Facebook」のアカウント保有率は50%といわれる。今の人気は、「LINE」に似たサービスである「WhatsApp」だ。

ケニアの「M-Pesa(エムペサ)」に代表される、携帯を使って送金や貯蓄を行うモバイルバンキングサービスは、アフリカ54カ国中37カ国で導入済みだ。電気料金や学校の授業料は携帯で納入する。安全で早く、賄賂を介在させずに小口決裁ができるM-Pesaの普及に伴い、携帯を使ったマイクロファイナンス、農業保険、教育ビジネスとサービスは広がりを見せる。都市部には携帯・ITサービスで起業を目指す若者がたくさんいる。

しかしそんなアフリカでも、なかなか事業として離陸しなかったのがeコマースだ。eコマースは、ネット事業というより古典的な小売業の性格が強い。在庫を抱え、物流センターを持ち、サプライチェーンを整備し、オペレーションを常に改善してコストダウンを図り、カスタマーサービスを教育し続けなければならない。

それには、細かなナレッジの積み上げと大きな資金が必要だ。さらにその前提となるのは、道路、物流システム、調達、決済システム、人材、資金調達といったビジネスインフラである。

そもそも、アフリカで携帯・ITサービスが爆発的に普及したのは、リテール事業の基盤となるインフラがなかったからにほかならない。送金ニーズがあるのに、地方にATMはなく、口座も持てない。道路インフラの悪さが、人、モノ、情報が行き来するのを妨げ、需給のアンマッチングや情報の非対称性を生む。ITは、インフラがなくともニーズを満たせるからこそ、課題を解決してきた。

よって、いくらIT産業が隆盛しても、物理的なインフラを必要とするeコマース事業はそのコストに見合う売り上げを上げるに至らず、生まれては消えてきた。運ぶ必要も倉庫も必要がないチケット類の販売でしか、機能してこなかった。

ナイジェリアで直販モデルという奇跡

ところが、ナイジェリアでは、eコマースの市場規模が2014年に10億ドル規模に達するだろうといわれている。その立役者が、1年半前に創業したばかりのJUMIAとKongaである。

ナイジェリアは、世界7番目の人口1億7,000万人を抱え、潜在的な消費地としての期待が高い。そのため、世界中から投資が集まっている。JUMIAとKongaの成長は、そのナイジェリアにおける小売り事業の、現在の困難さと今後の可能性をよく表している。

両社は事業を拡大し続けている。1カ月違いで創業され、ともに今年の夏に1周年パーティーを行ったばかりだ。この間に、JUMIAはラゴスの工業地帯オレガン(Oregun)にあった4平方メートルの倉庫を、800平方メートルの物流センターに拡大させた。Kongaはオフィスの引っ越しを3度行わねばならず、今や従業員数は300人を超えた。新オフィスを訪れると、まだ使われていない机が20~30個積まれていたが、それらもあっという間に埋まることだろう。

両社とも、アマゾン型の直販モデルだ(楽天型のマーケットプレイス事業も並行して展開)。メーカーから商品を買い取り、自社保有の倉庫で管理し、注文に応じて配送する。配送範囲はナイジェリア全土。DHLなど外部の運送会社も使いつつ、最も注文が多いラゴス市内はトラックとバイクを保有し、自社で配送を行っている。

消費者はPC、タブレット、スマートフォンを用いてサイトにアクセスし、欲しい商品を選ぶ。決済はクレジットカード、銀行口座、代引きが選べる。注文から受け取りにかかる時間は24時間から5日程度だ。

取り扱うのは、携帯・PC・電化製品、ファッション・美容、本、家庭用品などだ。アップルのiPhoneやMacBook、Boseのスピーカー、ニコンの一眼レフ、ZARAのワンピース、カルティエの香水、ボディショップのスキンケア商品など、海外のブランド品は人気商品だ。両社とも商品点数は10万点を超えたとされる。

そう、我々がふだん使用しているeコマースと、ほぼ同じものだ。しかし、ナイジェリアを知っている人なら、これがこの国でできていることを奇跡のように思うだろう。

停電、渋滞、前払いルール... 小売りに立ちはだかる数々の困難

先に書いた、eコマースを成立させるために必要なビジネスインフラは、ナイジェリアでも十分ではない。それどころか、そもそも小売りにとって事業環境は厳しい。

ラゴスは人口1200万人とも1700万人ともいわれ、すでに「ワンランク上のモノ」を欲しがる消費者が登場する段階に達し、それに応じて海外ブランド企業が多く進出している。にも関わらず、1日の半分は停電し、水道も整備されていない。自家用発電機と水タンクが大量消費を支えている。都市計画の不備による渋滞がひどく、時間帯によっては道路か駐車場かわからないほど混んでいる。時間通りに物を運ぶのは困難だ。狭い土地に人と投資が集まっており、家賃は高い。

後払いが成立する信用基盤がないため、取引は前払いが基本だ。ちなみにラゴスのホテルでは、チェックイン時に宿泊費はもちろん、食べるかどうかもわからないルームサービス代もデポジットで取られる。商売においても同様である。

安価な中国製品や関税を逃れた密輸品が市場を席捲しており、汎用品で戦うのは、厳しい。中間層以上の層にターゲティングしたくとも、近年はショッピングモールができているとはいえ、販路が非常に分散しているため、欲しがる層に届けることが難しい。都市部以外になると内陸輸送のコストが跳ね上がる。

ナイジェリアのラゴス市内の幹線道路。路上は車で溢れかえっている(ABP撮影)
ラゴス市内の幹線道路。路上は車で溢れかえっている(ABP撮影)

政府の動きは読みづらい。ホンダは1980年代から、ナイジェリアで二輪車と発電機を販売してきた。しかし、市内を走り回っていた「オカダ」という名称で知られるバイクタクシーは、ここ1年で姿を消した。政府が進入禁止にしたからだ。かわりに増えたのはインドから来た三輪タクシーで、バイクとの割合はすっかり逆転した。

ホンダは今年、四輪車の販売会社を設立して自動車販売のアクセルを踏んだ。ところが11月になって、政府は完成車の輸入関税を最大35%から70%といきなり2倍にすると通達してきた。

コストがかかり、ターゲットとの接点を持ちづらく、ルール変更のリスクがある。それでもナイジェリアに莫大な投資が集まるのは、人口の多さと、その消費力の伸びゆえだ。

インフラがなければ自ら手がける

味の素は90年代から、「味の素」のリパック工場を持ち、生産と販売を行っている。つい先日、東洋水産との合弁によりナイジェリアで即席麺の生産・販売を開始することを発表した。加工食品である即席麺は、人々の食費を上げる。それでも即席麺を日常生活で食べる人は、すっかり増えた。

ナイジェリアの地場の市場で売られる味の素と即席麺(ABP撮影)
ナイジェリアの地場の市場で売られる味の素と即席麺(ABP撮影)

JUMIAはドイツのテック系インキュベーターのロケット・インターネット(Rocket Internet)の他、JP モルガン・アセットマネジメントなどからも出資を受けている。Kongaは南アフリカのメディアジャイアント、ナスパース(Naspers)が出資者だ。

彼らは今、ひたすら規模を拡大している。eコマース事業が成立するだけの規模に到達し、足りないインフラとサプライチェーンの整備に至る地点を目指して、とにかくお金を突っ込み続けている。

ナイジェリアの交通渋滞がひどくとも、トラックとバイクを使い分け、人を投入し、オンタイムの配送に挑み続ける。午前中に届けるために朝5時に出発することもある。そもそも物流を任せられる企業が現地にないにも関わらず、自社で担うことでeコマース事業を始めてしまったのだ。

クレジットカードを持たない人や、前払いを嫌がり商品を手に入れるまでお金を払いたがらない疑い深い人々のために、代引きを可能にした。また、町中にリアルのサービスショップをつくり、そこで商品と引き換えることもできるようにもし始めた。

最近、スマホ用のアプリも開発した。両社のサイトはナイジェリアで20位以内に入る集客力を持つようになってきた。

日本企業にもチャンス

eコマースだからこそ実現できることは多い。道路の渋滞と人の多さは、人々が買い物に行くこと自体もうんざりさせているので、eコマース事業にとっては逆にチャンスだ。中間層以上におけるPC、タブレット、スマートフォンの普及率は高い。信用基盤がないがゆえにナイジェリアで求められる、製品保証やカスタマーサービスは、eコマースと相性がいい。

すでに多くの海外の消費財企業がナイジェリアに輸出できる体制を整えていたことが、調達を行いやすくし、リードタイムを短くした。倉庫を現地に持っている企業も多いため、PCや家電などなら数時間で調達できる。

メーカーと直取引することで、偽物をつかむリスクを減らせる。JUMIAもKongaも、正規ブランド品であることを示す保証をつけ、「本物」が欲しい消費者の期待に答えられる販売チャネルとなっている。

両社が自社で持っている配送インフラは、今後、ナイジェリアにおける宅配便事業の先駆けにもなる可能性もある。オフィスでは若いナイジェリア人たちが机を島に並べ、忙しそうに動き回っている。インタビューに答える姿からは、勢いのある会社特有の、自分の仕事を誇りに思う気持ちがあふれていた。このビジネスをナイジェリアでやりきるのは大変でしょうと問うと、「でも、eコマースってそういうものでしょう?」と答えた。

「何かが欲しい」から、いいもの-長持ちするもの、使いやすいもの、デザインがいいもの、海賊版ではないブランドもの-が欲しい消費者が増えているナイジェリア。そういう層にアクセスするには、これまでは企業は、家賃も光熱費も高いモールに競って厳しい条件で出店して、客が渋滞の中やってくるのを待つしか、方法はなかった。

さらに地方となると、届ける方法もなかった。これまでターゲティングするのが難しかった中間層以上の顧客が、eコマースサイトに集う。もちろんJUMIAやKongaに、日本製品を載せることも可能だ。これまでナイジェリア独特の困難さから消費者への小売りビジネスを諦めてきた日本企業にとっても、新たな可能性が広がろうとしている。

(この記事は、日経ビジネスオンラインの連載記事「歩けば見える、リアル・アフリカ」が初出です)
※引用される場合には、「アフリカビジネスパートナーズ」との出所の表記と引用におけるルールの遵守をお願いいたします。

執筆者: 梅本優香里

アフリカビジネスパートナーズ代表パートナー

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