- アフリカのビジネス環境
「もはや昔のアフリカではない」2018年は新体制が試される年に
アフリカビジネスの2018年予測
アフリカの2018年の経済とビジネスを予測しました。
2018年の予測、3つのポイント
- 不況だった南アフリカ、ナイジェリア経済に明るい兆し、2018年のアフリカのマクロ経済は安定へ
- ベンチャー投資は南アフリカの新技術ベンチャーやケニアのフィンテックに注目
- 日本・アジアをものさしにして世界を見るスタンスから脱却し、アフリカをフラットに見る日本企業が増加
「もはやあの頃のアフリカではない」
2017年のアフリカのマクロ経済は、2016年から引き続き、(1)資源価格の下落や政治的な要因を背景に、南アフリカ、ナイジェリアといった大陸有数の経済大国が不況で、(2)一方で資源を持たない、アフリカの中でも新興であるエチオピア、コートジボワールといった国が勢いをもって成長し、(3)工業化と都市化が一定の水準に達しているケニアやモロッコが安定的な成長を維持した、という構図となった。
図1:アフリカ各国の2017年経済成長率
(出所:IMF、予測値 作成:アフリカビジネスパートナーズ)
人口増加率に鑑みおおまかに考えると、青系統で塗られた国は成長しており、赤系統の国は成長に達していないと考えていい。
なお、2016年のアフリカ各国の経済成長率の地図とくらべてみると、2017年は濃い赤である極端に低成長の国が減り、成長を示す青系統の国が増えたことがわかる。
南アフリカとナイジェリアは2017年も厳しい状況が続いたものの、なんとか持ちこたえて第2四半期には経済成長率の下落が止まった。ようやく景気後退傾向から抜け出し、明るい兆しが見えてきたと言える。
政治面では、ケニアでは大統領選挙が2回実施される前代未聞の事態となり、ジンバブエでは政変が起こり37年間政権にいたムガベ大統領がとうとう辞任した。政治に何か起こるたび、1990年代のような政治混乱、紛争勃発、経済の長い低成長というバッドサイクルにおちいる危険性が指摘され続けたが、結果として紛争は起きず、経済への影響も想定の範囲内に収まっている。
アフリカ国家間の連携や政治体制の安定度が格段に増し、インフラが整備され内需の強さが増したいま、「もうあの頃のアフリカではない」といってよいのかもしれない。
南アフリカでは、経済通とされるラマポーザ氏が与党ANCの新議長(党首)に選ばれた。ANC議長は2019年の大統領選で新大統領となるのが既定路線だが、それを待たずして現大統領ズマ氏が退陣を迫られる可能性もでてきた。ズマ大統領は、南アフリカの政治・経済の混乱の原因とされる。アンゴラでも、38年間大統領の職にあったドス・サントス大統領が民主的に交代した。
古いレジームが解体し、新しいアフリカが生まれる端緒が示されたのが2017年だったと、あとから語られることになるかもしれない。
2018年は、その新しい体制が試される年となる。マクロ経済面では、GDP成長率が二桁を超えるような飛び抜けた成長をしていた国も、堅実な成長へと移行し、成長の中身を問われるようになるだろう。南アフリカとナイジェリアは、政治のリーダーシップに伴い根気強く少しずつ上向いていく年となるだろう。
通貨不安は一段落、2018年はプライベートエクイティのディール件数の増加を期待
投資家にとって2017年のアフリカは、通貨の不安定さが懸念材料となった。プライベートエクイティの中には新規投資を控えるところがでた。
もっとも、エジプトポンドが変動相場制への移行により一気に50%下がり、ナイジェリアナイラが通貨切り下げとなるなど動きが激しかった2016年と比べると、2017年のアフリカ主要国の対ドルレートは相対的に落ち着いていたと言える。
図2:アフリカ主要通貨の対ドルレート
(ナイジェリアナイラ、ガーナセディ、南アランド、エジプトポンド、ケニアシリング)
(出所:www.investing.com 作成:アフリカビジネスパートナーズ)
プライベートエクイティ(VC含む)のアフリカ向けディール総額は、2017年上期で10億ドル程度と低調だった。2014年は1年で81億ドルに達していた。一方、資金調達額は2017年上期で20億ドルと、例年と変わらない数値となっている。ファンドへの資金は引き続き集まっているが、投資が決まらない状況だ。
もともとアフリカ企業のソーシングは難しい。こちらが投資したい各国トップ企業群は、コングロマリットや家族経営で潤沢な資産を持ち、外部の投資を必要としておらず競争が厳しい。
その次の企業群となると、優良企業を見つけだすのには現地を知らなければ難しい上、案件として規模が小さく、価値向上に時間が長くかかり、投資の間尺にあわない。いうまでもなくカントリーリスクも事業や市場の不確実性も高い。
米KKRは、ヨーロッパファンドからエチオピアの花卉(かき)ファームへ2億ドルの投資を行っているが、2017年にアフリカチームを解散した模様だ。一方、米カーライルは引き続き活発で、2017年には南アフリカの信用格付け機関Global Credit Ratingを含む4つのディールを成立させた。
アフリカでは40近くの国で株式市場が存在しているが、上場によるイグジットは少なく、他の投資会社や事業会社、または既存株主への売却による回収が中心だ。2017年は、ケニアのカフェチェーンJAVA Houseを、13店舗の中堅カフェから5年間で地域60店舗を持つもっともオペレーションの優れたカフェへと価値向上させたプライベートエクイティECPが、他投資会社へ売却、期待通りのリターンを得た様子だ。
通貨や政治の不透明さが一段落し、イグジットの成功例がでてきたことから、2018年はディール件数が増えることを期待したい。
ベンチャー投資は新技術の南ア、フィンテックのケニア、幕開けのナイジェリア
ベンチャー投資は引き続き活発だった。日本のエンジェル税制に法人を加えたような、ベンチャー投資に対する税額控除が使われはじめた南アフリカでは、ベンチャーキャピタルの資金調達額が二桁%で伸びているとされる。
南アフリカは元来、最新の技術トレンドを取り入れた事業創造に強い。ソフトバンクと住友生命保険が、日本のフィンテック保険のさきがけとなるべくプログラムの独占使用権を獲得したのは、南アフリカの保険会社ディスカバリー社からだった。
ディスカバリーが開発したのは、運動記録や心拍数などの健康情報をウェアラブル端末経由で測定、取り組みを行うほど保険料が下がるプログラムだ。ビッグデータを用いた分析も可能になる。すでに世界16カ国以上で使用されている。
AI、ブロックチェーン、ドローンを用いた新事業が南アフリカでは次々生まれ、資金を得ている。保険のように政府の不作為により需給ギャップがある分野、たとえば教育系のスタートアップも注目の的だ。
ケニアでは、すでに十分に普及している携帯とモバイルバンキングを前提としたビジネスモデルのスタートアップが次々と生まれ、ベンチャーキャピタルなどから資金を得ている。
たとえば、シリコンバレーの著名なベンチャーキャピタルであるAndreessen Horowitzも投資を行っているBranchは、携帯を通じて少額ローンの提供と回収を行う。最初は数百円~数千円の短期の融資から始め、クレジットヒストリーが蓄積されるにつれて借りられる金額、期間が上乗せされ、金利が下がっていく。
Branchは2014年の創業だ。日本でも2017年は低所得者のキャッシュフローを融通する新しいビジネスが次々と生まれたが、ニーズが強いケニアは、日本より少し先を行っている。
少額債権が回収できるのだから、ケニアでもZOZOツケ払いのようなサービスが理論的にはできるはずだ。実際、eコマースとからませないリアル店舗での販売ではツケ払い的サービスがすでに始まっている。中古マーケットが確立している商品に限定すれば、アフリカ版CASHも可能だろう。
ナイジェリアは2018年、デジタル系スタートアップの立ち上がりとベンチャー投資の元年となるかもしれない。起業家精神が高い国であるものの、通信や電力のインフラが整っていないなどの環境要因に起因して、これまではスタートアップが生まれては消えてを繰り返してきた。
2017年は、米フェイスブックがナイジェリアにテック・コーワークスペースを開設しエンジニア支援に乗り出すことを発表、ネット環境の改善プロジェクトにも関わるなど、ナイジェリアを再評価する動きがみられた。
「世界の一地域としてのアフリカ」
この2つの世界地図を見比べて見て欲しい。
日本でよく使われている世界地図
世界でよく使われている世界地図
日本でよく使われている世界地図は、上の図のように、日本を中心に左にヨーロッパ、右にアメリカが位置するものだ。一方で、世界でもっともよく使われている世界地図である下の図では、ヨーロッパが中心で、経度が近いアフリカ大陸も自動的に中心に描かれている。
世界のビジネスパーソンはヨーロッパ、アフリカが中心に描かれている地図を広げて、世界を俯瞰し、戦略を立てている。この地図を見ていながら、アフリカをビジネス展開地域から外すのは、むしろ難しい。
とりわけ人間の数が事業の変数となるビジネスを世界で行う企業ならば、この真ん中に位置する大きな大陸に住む12億人の人たちを避けて通ろうとは考えないだろう。ヨーロッパやアメリカを市場とするバリューチェーンを組み立てる企業なら、アフリカを組み込むことを思いつくだろう。
先日、ファーストリテイリングが2018年にエチオピアで縫製品の試験生産を始め、欧米向け輸出拠点にする方針だというニュースが駆け巡った。アフリカで作れば、同社が開拓したいヨーロッパやアメリカの市場はすぐそこだ。
私自身も日常的に見ているのはアフリカが中心となっているの地図の方だ。不思議なことにこの地図を見ていると、東の端にある日本から飛び出し、広い世界で戦いたいというチャレンジャースピリットが湧いてくる。
日本企業はガラパゴスだと長年言われてきたが、日本と日本に近いアジアの経済圏をものさしにする見方から抜け出そうとしている企業はあらわれている。2018年はアフリカを、「日本から遠いアフリカ」でなく、「世界の一地域としてのアフリカ」とフラットに捉えて事業展開を行う企業が増えるだろう。
(この記事は、2018年1月7日にNewsPicksに寄稿した記事の再掲です)
※引用される場合には、「アフリカビジネスパートナーズ」との出所の表記と引用におけるルールの遵守をお願いいたします。