アフリカにおける携帯・スマホ、通信、モバイルマネーの普及率

アフリカのリープフロッグの原点

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アフリカにおける携帯・スマホ、通信、モバイルマネーの普及率

アフリカ進出や事業立ち上げにあたって、押さえておきたいのがアフリカでのスマートフォンやインターネットの普及率です。アフリカにおいて、携帯や通信はどの程度使われているのでしょうか。2023年時点の最新の統計情報をまとめた決定版です。

アフリカの携帯電話普及率

43%

2022年現在、サブサハラアフリカと呼ばれる北アフリカを除いた48カ国において、携帯電話保有者が人口に占める比率*は43%(GSMA、2022年)です。ちなみに、日本を含むアジア太平洋地域は62%なので、おおむね20ポイントの差となります。

この43%という数字は、今後は年率4.4%で増加し、2030年には50%に達すると予測されています。

なお、アフリカでは人口の半分が子どもで、生産人口(15~64歳)の割合は55%程度です。仮にこの55%の人口を母数に算出すると、携帯電話保有者比率は78%となります。

*携帯電話の加入契約(SIMカード)を保有する個人が人口に占める割合。1人が複数のSIMカードを保有している場合も1とカウント

携帯電話加入契約数を人口で割った携帯電話普及率**を国別にみると、アフリカ54カ国中上位20カ国は100%を超えています。

下図にみるように、下位から20番目のスーダンでも76%です(ITU、2021年)。アフリカで事業を行うにあたって、携帯がない状況というのは、あまり想像する必要がないと思われます。

**携帯電話加入契約数が人口に占める割合。1人で複数のSIMカードを保有している場合はSIMカードの数でカウント

アフリカでなぜ急速に携帯電話が普及したかというと、多くのアフリカの国はリレーションシップ社会であり、人間関係を維持することを重視します。用がなくても頻繁に会って言葉を交わし、挨拶をする習慣があり、このニーズに携帯電話が非常によくフィットしたことがひとつの理由であるかと思います。

電気がない地域でも、学校教育が無償化される前の世代である字が読めない年配層でも、人間関係は重要なので、週に1回街の充電屋に出向いたり、字の読める家族に操作してもらったりして、携帯は使います。

農村と都市の間で人の移動が多いなか、出稼ぎで都市に住む人と農村に住む家族とのコミュニケーションにも携帯はとてもよく適合します。

図表1:アフリカ上位20カ国と下位20カ国の携帯普及率(ITU、2021年)

アフリカ上位20カ国と下位20カ国の携帯普及率

関連情報:上記以外の主要国26カ国の携帯電話普及率(アフリカ国別情報

アフリカのスマートフォン普及率

44%

アフリカでは年間約2億台の携帯が販売されており、そのうち44%がスマートフォンです(IDC、2022年)。

2022年は、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した為替変動などにより、携帯の販売台数が落ち込みました。

購入されているスマホの42%が100ドル以下、44%が100ドル~200ドルです。OSはほぼアンドロイドとなります。

図表2:アフリカの携帯端末販売台数推移(百万台、IDC)

グラフ上の数値は上から、合計、スマートフォン、フィーチャーフォンの販売台数(百万台)。2019年のスマートフォン、フィーチャーフォンの台数は9カ月分のみの計であるため合計とあわない

アフリカの携帯端末メーカーシェア

アフリカで最大のシェアを持つ携帯端末メーカーは、中国トランシオン(Transsion)です。アフリカに最初にやってきた携帯はNokiaで、次にサムスン(Samsung)が市場を席巻したのですが、2008年からにアフリカ市場に注力するメーカーとして事業を開始したトランシオンが、いまでは年間1億台以上を売るトップメーカーとなりました。

関連記事:アフリカのトップ携帯メーカー、トランシオン(伝音)の香港スター市場の上場

2022年末時点のスマートフォンにおけるトランシオンのシェアは、台数ベースで43%です(IDC、2022年)。サムスンが29%で続きます。すでに金額ベースでもトランシオンはサムスンを上回りました。

フィーチャーフォンになると、トランシオンのシェアはさらに上がり、79%を占めます。

トランシオンがこれだけのシェアを得ることになったのは、農村から販売を開始したからです。まだ携帯が普及していなかった農村で足で稼ぐ販売を行い、バッテリーが長持ちするという農村の人がもっとも求めていた機能を武器に、独占的なシェアを獲得しました。

まさに前述の非電化地域や非識字層のような、携帯へのニーズはあるもののこそ、使用に障壁があった層にトランシオンの携帯がフィットしたのです。

関連記事:アフリカでシェアを獲得したトランシオンの販売方法(アフリカでは携帯はどの程度普及しているの?通信環境は?

最初は、農村向けのフィーチャーフォンだけで強いブランドでしたが、いまでは都市部で販売されるスマートフォンでもトップシェアとなっています。価格帯別に、Tecno、itel、Infinixという3つのブランドポートフォリオを取り揃えています。

エチオピアの地方の小売店に看板を掲げるトランシオンのブランドTecno(ABP撮影)
エチオピアの地方の小売店に看板を掲げるトランシオンのブランドTecno。地方にはどこでもトランシオンが営業した形跡がある(ABP撮影)
ナイロビの店舗で販売されるTecnoの携帯
ナイロビの店舗で販売されるTecnoのスマホ。マラソン金メダリストキプチョゲ選手を、新発売した折りたたみスマホの広告に起用している(ABP撮影)
ガーナのモールに所在するアップルストア
ガーナのモールに入っているアップルストア(ABP撮影)

ただし、携帯端末のメーカーシェアは、国別で大きな違いがあります。トランシオンが特に強いのはナイジェリアで、77%と圧倒的なシェアを占めています。一方で、南アフリカでは存在感はなく(サムスンが30%でトップ)、ケニアではトランシオンとサムスンがほぼ30%ずつでシェアを分けています。ガーナではサムスンが45%、トランシオンが38%とサムスンが優勢です。

エジプトになると、30%のトップシェアであるサムスンに続くのは、他の中国ブランドであるOPPOやシャオミ、ファーウェイであり、トランシオンのシェアは10%以下です。ノキアやサムスンOPPOシャオミはエジプトにスマホ工場も建てました。

なお、トランシオンのスマートフォンのシェアは、2020年末頃までは成長し、一時は48%に達しましたが、この3年ほどは伸び悩んでいます。2022年はサムスンがシェアを盛り返しています。

iPhoneはアフリカでも人気です。使わずに見せびらかす「見せiPhone」があるくらいです。ただ新品だと10万円近い価格になるので、200~300ドル程度の輸入中古がよく買われています。

なお、新品・中古およびフィーチャーフォン、スマホの別なく、ウェブサイトに実際に接続された携帯端末のシェアというデータもあります。

そちらをみると、トップはサムスンの33%、トランシオンが18%、アップル14%、ファーウェイ13%と続きます。モバイルインターネットにつないでいる携帯としては、サムスンが強く、アップルとファーウェイもよく使われていることがわかります。ウェブ上のサービスやコンテンツを提供する際は念頭に置く必要があります。この接続シェアの数値について詳しくお知りになりたいときは、こちらからご連絡ください。

携帯電話のブランドは、アフリカの人たちにとって身近なブランド商品です。「アフリカにおける好きなブランド調査」の2021年の結果では、サムスンは3位、アップルは5位に入っています。トランシオンのブランドであるTecnoは6位、iTelは15位、Infinixは25位と、すべてがランクインしています。

関連記事:トップ10には携帯端末ブランドが3つと通信会社が1社ランクイン(アフリカにおける好きなブランドトップ100、2021年版)

アフリカの通信環境

3G

サブサハラアフリカ全体でみると、携帯通信に占める4Gの割合は22%、まだ3Gが50%を超えて中心です(GSMA、2022年)

面白いのは、携帯通信のアフリカ先進国であるケニアなどの東アフリカ地域の4Gの割合は16%しかないのに対し、エチオピアでは4Gが24%を占めることです。エチオピアは、前述の携帯普及率でも下位20カ国に入っているように、携帯の保有や通信の整備が他の国より遅れて始まりました。最近になってスマートフォンが買われるようになったからこそ、最初から4Gのスマホを使っているのだと思います。

過去からのレガシーがないがゆえに、新しいものが普及しやすいというリープフロッグ現象が、東アフリカとエチオピアの間にも生じているのです。

東アフリカのように、すでに3G時代に携帯の普及が進んでしまった地域は、3Gから4G、そして5Gへと端末の買い替えを促さなければなりません。アフリカでも、新たに購入された端末については、すでに4Gの占める割合は81%に達しており、買い替えが進むにつれて、4Gが主流となっていくでしょう。2030年には、4Gの普及率が49%になると予想されています(GSMA)。

5G通信については、2019年に南アフリカ、チュニジア、ナイジェリアで、2020年にモロッコ、ウガンダ、ケニアで通信会社が商業サービスを開始しています。今年2023年にも、ナイジェリア、タンザニア、モザンビーク、ガンビア、ウガンダ、モーリシャスの通信会社が新たにサービスを開始しました。

後述するように、ソフトバンクはアフリカで5G通信を商業化するべく、成層圏ドローン通信の実証実験をルワンダで実施しています。

アフリカのインターネット普及率

25%

サブサハラアフリカにおけるモバイルインターネットの普及率は、25%と算出されています(GSMA、2022年)。ただしこれも母数は全人口なので、15歳以上人口を母数に計算すると、45%となります。

ただし、インターネットの利用は、都市と農村で大きく違います。都市にはWi-Fiが整備されているため、8-9割の人がインターネットに接続し、WhatsAppのようなメッセージアプリやYouTubeのような動画も楽しんでいますが、農村では通信インフラが不足しているため接続そのものができません。

2023年はアフリカにも、イーロン・マスク率いるスペースXのスターリンクがやってきました(ナイジェリア、ケニア、ルワンダ、モザンビークで商業サービス開始)。アマゾンは、低軌道衛星通信のプロジェクト・カイパーをアフリカで進めるべく、南アフリカの通信会社ボーダコムと提携しました。

スターリンクやプロジェクト・カイパーのような衛星通信や、ソフトバンクの成層圏のドローンや気球インターネットは、人口密度が低いがゆえに通信塔を建てて維持するには経済性があわないような農村にもインターネットを届けることができます。

図表3:アフリカ上位20カ国と下位20カ国のインターネット普及率***(ITU、2021年)

***人口に占めるインターネットの利用率。携帯を用いたインターネット接続に限定しない

関連情報:上記以外の主要国26カ国のインターネット普及率(アフリカ国別情報

アフリカのモバイルマネー普及率

69%

よく知られているように、アフリカのいくつかの国では、携帯を使って送金や決済、購入を行う「モバイルマネー」が普及しています。

2007年にケニアの通信会社サファリコムが開始したM-Pesa(エムペサ、ペサはスワヒリ語でお金の意味)が最初です。実はこのM-Pesa、最初から商業ベースに始まったのではなく、援助機関が家計を守るお母さんたちに確実に援助資金を届ける方法として考えたものが出発点でした。

なので、とにかく簡単に、フィーチャーフォンに少ない番号を打ち込むだけで、送金や支払いができるようにしたのです。いまはアプリもあるM-Pesaですが、最初はUSSDを使った簡易なものでした。

ケニアの15歳以上人口におけるモバイルマネーの普及率は69%です(世銀、2021年)。孫に代わりに操作してもらっている田舎のおばあちゃんや、家族複数人で1台の携帯を共有している人もいるので数値としては70%に留まっていますが、ケニアではM-Pesaはごく一般的な誰でも使う社会インフラとなっています。

モバイルマネーが普及している他の国は、ガーナやウガンダ、ジンバブエ、タンザニア、セネガルなどです。ジンバブエには同国を出自とする汎アフリカ通信会社が存在しており、早くからモバイルマネーが使われていました。

図表4:アフリカのモバイルマネー普及率(%、世銀、2021年)

ケニアのサファリコムショップ
ケニアでM-Pesaを取り扱う小売店。看板に4Gが宣伝され、通信会社が切り替えを促進しているのがわかる。M-Pesaは、こういった代理店業務を行う物理的な店舗で現金をモバイルマネーに交換・入金(Top up)することで使えるようになる。銀行口座から携帯に送金して入金することも可能。代理店では逆にモバイルマネーを現金に変えることもできるので、デジタル的に送金された金額を現金化することで送金を受け取ることが可能となる仕組み。店舗やオンライサイトがM-Pesa番号を登録していれば決済もできる。通話料は別途購入する。こういった業務を行う代理店は、ケニアだけで60万店存在しており、この数は日本のコンビニ総数の約10倍に相当する。

意外と普及率が低いのが、スタートアップやフィンテックが活躍する南アフリカやナイジェリアです。両国とも資源国で、歴史的に銀行の産業としての力が強いです。銀行が強い国は、1つの国に複数の金融システムを持つことを嫌う勢力により、モバイルマネーが普及しづらい傾向があります。どちらの国も、モバイルマネーよりも先に、銀行のオンラインバンキングの方が普及しました。

関連記事:アフリカスタートアップのBIG4、それぞれの事業環境の違い(アフリカスタートアップ白書

なお、よく「アフリカでは銀行口座が持てないからモバイルマネーが普及した」と言われますが、少し違います。ケニアの15歳以上の銀行口座保有率は51%あります。人々は、銀行口座とモバイルマネーを両方保有し、状況に応じてモバイルマネーを選んでいるのです。

銀行口座が低くてもモバイルマネーの普及率が低い国もあり、両方高い国もあります。モバイルマネー普及率と銀行口座保有率に相関はありません。

携帯や通信は、ビジネスにおいての基礎インフラです。アフリカでフィンテックやアグリテックが普及するにあたって、スマートフォンやモバイルマネーが普及していることが、多いに助けになっていることは言を俟ちません。

関連情報:アフリカにおけるモバイルを使ったスタートアップの事業事例(アフリカスタートアップ白書(2022年上半期版)

そのため、アフリカにおいては、通信塔や5Gインフラといった通信インフラへの投資、データセンターへの投資、携帯端末価格を下げるため国産スマホ工場への投資などが活発に行われています。

日本企業も取り組んでいます。ソフトバンクはルワンダで成層圏のドローンインターネットの実験を成功させました。住友商事は、ケニアのサファリコムらと合弁を組んで、エチオピアで通信事業の立ち上げを行っています。いわゆるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)も、アフリカの通信や携帯領域への投資を積極的に行っています。

関連記事:GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)はアフリカで何をしている?

※引用される場合には、「アフリカビジネスパートナーズ」との出所の表記と引用におけるルールの遵守をお願いいたします。

執筆者: 梅本優香里

アフリカビジネスパートナーズ代表パートナー

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