日本企業のアフリカ進出を読み解く(3)欧米諸国、または中国インドなどのグローバルサウスは、アフリカに進出しているのか

第9回目となるTICAD(アフリカ開発会議)が、2025年8月に横浜で開催されることが決まった。日本とアフリカの間で開かれる最大の会議で、この10年はビジネスが重要なトピックスとして挙げられてきた。10年を経たいま、日本企業のアフリカビジネスはどうなっているのか。弊社が発行した「アフリカビジネスに関わる日本企業リスト」の調査結果をもとに、最前線の現場から、日系企業のアフリカビジネスの現在地を考察したい。

この連載では「日本企業のアフリカ進出を読み解く」というテーマで、以下のトピックスを順次掲載する。当ページは連載3回目である。

(1)アフリカにおける日本企業、近年の6つの動き
(2)日本企業のアフリカ進出はこの10年で進んだのか
(3)欧米諸国、または中国インドなどのグローバルサウスは、アフリカに進出しているのか
(4)日本企業はアフリカで成功しているのか。アフリカビジネスの代表的な日本企業はどこか
(5)スタートアップ投資、電気自動車、気候変動といったビジネスの潮流にのる日本企業はどこか
(6)アフリカにおけるジャパン・プレミアムと日本企業のプレゼンス
(7)日本企業のアフリカビジネスの特徴-その課題と処方箋

(3)欧米諸国、または中国インドなどのグローバルサウスは、アフリカに進出しているのか

アフリカビジネスをテーマにした各国の国際会議

日本がアフリカと開催しているTICAD(Tokyo International Conference on African Development、アフリカ開発会議)は、1993年に始まった。「アフリカ開発会議」という名称どおり、アフリカに対する国際的な支援や開発援助がテーマであったものの、2013年のTICAD5で「援助から民間投資へ」というコンセプトが打ち出され、ビジネスがテーマに加えられた。

アフリカのマクロ経済が成長した2000年以降は、世界の国々がアフリカの成長を自国に取り込み、関係性を深めようと、アフリカビジネスをテーマにした国際会議を開催している。

各国によるビジネスをテーマにしたアフリカとの国際会議

アフリカビジネスパートナーズ作成

中国がこういった会議を開始したのは2000年と早く、中国自身の成長の過程でアフリカとの関係性を構築してきた。インドは2005年、UAEとブラジルは2013年から開始している。

米国は1997年と、日本とそう変わらない時期から開始しているものの、英国、フランスなどの開催は最近になってからだ。先進国やG7の国々よりも、グローバルサウスの国々の方が早く開始していたことがわかる。近年はこれまでアフリカと強い関係があったわけではない韓国やインドネシアといった国も開始した。

会議には、政府関係者と民間関係者が一同に介し、政府入札やPPP案件の形成が進んだり、政府主導の民間企業への投資イニシアチブが決まるだけでなく、お互いの民間企業同士が出会い商売の話が進む機会となる。閉会後に相次ぎ大型投資が発表されることも多い。分野によっては、アフリカ側は多数の会議で多数の国から求婚を得ており、選ぶ立場にもなっている。

中国の直近開催された2024年のFOCACでは、台湾との国交を維持しているため中国と国交がないエスワティニを除く、アフリカ54カ国中53カ国が招待された。国家元首である大統領や首相が何人参加するかが、アフリカ側がどれだけその国を重要視しているかのバロメーターとなっているが、2024年のFOCACは53カ国中39カ国が国家元首が参加し、14カ国は元首でない副大統領や首相、外相が参加した。

中国や日本は毎回、今後のアフリカに対する借款や資金援助、民間投資の金額をコミットメントとして宣言する。2024年のFOCACでは507億ドルが約束された。

中国はよく「債務の罠」として、アフリカなど途上国に無理な融資をすることでインフラや資源を我が物にしようとしている、政策や外交で圧力をかけていると批判されるものの、実は2016年を境に中国のアフリカに対する投融資は激減している。FOCACにおいても、2015年に前回比大幅増額となる600億ドルを打ち上げたあと、金額は横ばい・減額で推移、2024年は久しぶりに前回比増額となった。

中国のFOCACにおけるコミットメント金額(単位:10億ドル)

アフリカビジネスパートナーズ作成

欧米諸国やグローバルサウスのアフリカへの進出状況

実際の民間企業のアフリカ進出では、どの国が強いのだろうか。また、国によりそのビジネスモデルやアプローチに特徴はあるのだろうか。

日本企業のアフリカ進出の特徴と中国、フランス、イギリス、アメリカ、インド、韓国との違い
中国

各国の進出拠点数/企業数を比較すると、主要8カ国で約5,000社、全体で約1万社がアフリカに進出している中国が、圧倒的に多いことがわかる。中国のアフリカ進出は、国有企業を通じたインフラ投資や建設といった大きなものもあるが、アフリカにチャンスがあると聞いて個人がアフリカにやってきてはじめたような企業も多く、民間企業が全体の9割を占めている。

ビジネスの難易度や言語の違いなど気にせず、需要と供給のギャップがある分野をみつければすぐ売り始め、製造を開始し、それをみて真似する中国企業がまた進出する。アフリカのどんな農村や地方に行っても、数人で、または通訳とシェフを伴い従業員が一緒に住んで、事業を行っている中国企業をみかける。日本企業は進出するにあたって市場の規模やサプライチェーンの整備状況を気にするが、中国民間企業にとっては「需給のギャップ」こそがチャンスと見えるようである。

そのせいか、BtoCの消費財ビジネスにめっぽう強い。ノキアやサムスンなど先行メーカーが儲からないと無視していた農村部で携帯端末を売り、アフリカトップの携帯端末メーカーとなったトランシオンや、長年アフリカではおむつの代名詞だったパンパースよりも、安くてちょうどよい品質の製品をつくり、手に入りやすいチャネルを切り開いてシェアを大きく奪ったSundaなどが有名だ。

アフリカの消費者の「欲しいのに手に入らない」というギャップを見逃さない。また、売るための販路を自分でつくるサプライチェーン・メーキングが得意で、農村でも貧困層向けでもちゃんと売る。先にとにかく売って、あとから体制を整える、中国企業に多いアプローチ方法なため、失敗や撤退もあり、政府とトラブルを起こしたり、トランシオンがいまQualcomm、Philips、ノキア、ファーウエイから特許侵害を訴えられているように問題も起こるが、方向転換も早い。

製造業向けの機械や資材といった、日本が強い分野も、中国企業が「ギャップ」をみつけている。公用語がフランス語だろうがポルトガル語だろうがアムハラ語だろうが、それどころか英語が話せなかろうが、翻訳アプリを使って現地企業との商談をまとめている様子をよくみかける。まずは顔合わせや情報収集を好む日本企業と違い、すぐに製品と価格を提示する中国企業の方法は、アフリカ企業に好まれている。アフリカ事業を担う人の年齢が若いのも中国の特徴だ。20代や30代のマネージャーが切磋琢磨している。

フランスとイギリス

フランスとイギリスはいわゆる旧宗主国だが、得意な産業とアプローチに違いがある。フランスは西アフリカから中部アフリカのフランス語圏で強く、政治的な関係性や政商、財閥とのつながりを活用し、その国のインフラやエネルギー、資源、貿易、物流港湾、通信、金融といった基幹産業をすべて押さえてしまう。こういった政治的・支配的なフランスのやり方は反発も生んでおり、近年は排斥運動も起きている。いずれも仏語圏のブルキナファソ、マリ、ニジェールで起こったクーデターには、反仏感情が背景にあった。

一方イギリスは、国単位でまるごと抱えることはせず、資本投下の有効な産業に集中している。たとえば資源や金融、農業、不動産だ。たとえば歴史的に関係が深く、イギリス出自の人も多く住んでいる南アフリカでは、アングロ・アメリカンを始めとする資源会社と金融会社を持ち、大規模農場を運営し、地主として収益を上げる。イギリス的資本主義を体現している。だからこそか、英国系の多国籍消費財企業は、たとえ売れていてシェアが高くともROIに見合わないとなると撤退するのも早い。

アメリカ

アメリカは、とくにアフリカをめがけて進出しているというよりも、グローバル企業が多いため、その過程でアフリカにも進出している企業が多い。コカ・コーラはアフリカでもっとも成功している外資消費財企業で、南アフリカのボトラーは世界のボトラーランキングで8位につけているが、中南米でもインドでも勝てるような企業はアフリカでも当然強い。アフリカの人々に好きなブランドを調査すると、100位中32ブランドが米国企業だ。

関連記事:アフリカにおける好きなブランドトップ100

近年は、Google、Amazon、Meta(Facebook)、AppleといったいわゆるGAFA企業や、マイクロソフト、Netflix、イーロン・マスクのスターリンクやNvidiaがアフリカで事業や投資を行っており、「世界を狙う企業はアフリカにも必ずやってくる」構図を示している。

インド

インドについては、「アフリカは印僑が多い」「インド企業を通じてアフリカ進出ができる」と言われるが、少し誤解がある。南ア、ケニア、タンザニア、ナイジェリア、エジプトといった国には、インド系の人が立ち上げたビジネスが多く、とくに製造業や流通業は彼らがその国の中心的なプレーヤーとなっている。よって、印僑が多いは正しい。ただし彼らはアフリカにきてすでに3代目となり、その国に根付いて商売を行っている。いまインドに本社があるインド企業が次々アフリカに進出しているわけではないので、インド企業とアフリカにいっしょに進出するというアイディアはかなり限定的だ。インド企業の進出数は600社程度とされ、日本と大きく違わない。それよりいまアフリカにいるインド系の現地企業とどう協業するかが大事だ。

韓国

韓国は、サムスンやLGといった携帯や家電、自動車、建設といった韓国が国際ビジネスで強い産業で、アフリカでも強い。最近になって韓国政府はアフリカ進出にさらにギアを入れている。2024年にははじめてとなるビジネス国際会議South Korea Africa Business Summitを開催し、アフリカから48カ国が参加したとされる。美容製品や韓ドラも、アフリカに入ってきている。2021年のイカゲームはNetflixを通じてアフリカでも人気となった。

中東とロシアのアフリカビジネスへの参戦

これらがアフリカに進出している主たる国だが、この5年で新たにアフリカ投資を積極化した国もある。

中東企業のアフリカ投資

最近、急スピードでアフリカに接近しているのが中東の国々だ。中東はもともとアフリカから遠い国ではない。一番近い貿易拠点であり出稼ぎ先だ。アフリカにとっては石油製品の輸入元であり、農産物や金など鉱物資源の輸出先で、2021年のアフリカの最大の輸出相手国はUAEだった

しかし、最近の動きは、これまでと明らかに違う。アラブ首長国連邦(UAE)のドバイやアブダビ、サウジアラビアの政府系企業が次々と、アフリカの港湾や代替エネルギーに投資している。流れが変わったのは、ドバイやアブダビで若いトップが実権を握ってからだ。鉱物資源と食料を自国に運ぶサプライチェーンを確保し、アフリカと他を結ぶ貿易の拠点となり、紅海・アデン湾など重要地域を政治・軍事的に管理しようとする目的が透けて見える。

経緯や投資の具体的な説明は、以下関連記事を参照されたい。

関連記事:中国、ロシアだけではない。アフリカへ積極進出するUAEの動き

ロシアもアフリカに本腰を入れ始めた。ウクライナへの軍事侵攻以前は、エジプトとの深い関係やワグネルによる軍事的なつながりはあったものの、アフリカとは強い経済・貿易関係は持っていなかった。しかし戦況が続くにつれて、エネルギーや製造業で進出しようと北アフリカから西アフリカを中心にアフリカ詣でを行っている。アフリカには脱炭素・気候変動の潮流により火力発電への投資がストップし、電力確保に困っている国々が多いため、国営企業Rosatomが原子力発電所の建設をもちかけており、エジプトではすでに建設が始まった。

政治力のフランス、資本を使うイギリス、グローバル展開の一貫としてアフリカに来る米国など、それぞれのアフリカ進出アプローチには特徴がある。中国は、政府による大型インフラ投資は下火となったものの、民間企業の動きは衰えず、いまの1万社が倍になる日も近い勢いだ。UAEはかつての中国のように、インフラと物流を押さえ、エネルギーを押さえ、資源を押さえようと、大盤振る舞いで進出中だ。

このような他国と比較したときに、日本はアフリカビジネスにどのような戦略をもつべきだろうか。また、組むべき相手はどの国の企業だろうか。

次回は4回目のトピックス「(4)日本企業はアフリカで成功しているのか。アフリカビジネスの代表的な日本企業はどこか」について掲載する。

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