モロッコ

王国が進める工業化・輸出産業化が進み「欧州の工場」へ。自動車部品や縫製といった軽工業や財閥や大企業を通じた消費市場進出にチャンス

モロッコ

経済・ビジネス指標

正式名称
モロッコ王国
人口
3,771万人(2023年、世銀)
アフリカ11位
宗教
イスラム教(外務省)
使用言語
アラビア語、ベルベル語、フランス語(外務省)
GDP
1,571億ドル(2024年予測値、IMF、名目ベース)
アフリカ5位
GDP成長率(経済成長率)
2.8%(2024年予測値、IMF、実質ベース)
アフリカ39位
一人当たりGDP
4,204ドル(2024年予測値、IMF、名目ベース)
アフリカ13位
GDP構成比
農業14.0%、工業29.5%、サービス56.5%(2017年予測値、CIA)
消費者物価上昇率
1.7%(2024年予測値、IMF、年平均)
政府債務残高GDP比率
68.7%(2024年予測値、IMF、年平均)
輸出額上位3品目
肥料原料(15%)、自動車(13%)、絶縁電線(9%)(2022年、OEC)
輸出額上位3カ国
スペイン(18%)、フランス(17%)、インド(6%)(2022年、OEC)
輸入額上位3品目
精製石油(13%)、小麦(3%)、石油ガス(3%)(2022年、OEC)
輸入額上位3カ国
スペイン(18%)、フランス(10%)、中国(10%)(2022年、OEC)
直接投資額(フロー)
10.9億ドル(2023年、UNCTAD)
工業競争力指数
世界66位(2021年、UNIDO)
都市人口・都市人口比率
2,355万人・63.5%(2020年予測値、世銀)
アフリカ7位
中位年齢(人口の中央の年齢)
29歳(2023年、国連)
中間層比率※
77.8%(2013年、アフリカビジネスパートナーズ)
ジニ係数
39.5(2013年、世銀)
アフリカ25位
現地日系企業数※
61社(2024年、アフリカビジネスパートナーズ)
アフリカ3位
加盟経済共同体
UMA(アラブ・マグレブ連合)
CEN-SAD(サヘル・サハラ諸国国家共同体)
Doing Business ランキング
世界53位、アフリカ3位(2020年、世銀)
腐敗指数
世界94位、アフリカ14位(2022年、世銀)
デモクラシー指数
世界93位、アフリカ16位(2024年、EIU)
リスク指数
カントリーリスクB、ビジネス環境A4(2022年、coface)
携帯電話普及率
137%(2021年、ITU)
インターネット利用率
91%(2022年、ITU)
銀行口座普及率
42%(2021年、世銀)
モバイルマネー普及率
6%(2021年、世銀)
次回の大統領選挙年
2026年

※「中間層比率」はこちら、「現地日系企業数」はこちらにアフリカ各国のデータと算出根拠が説明されています。

経済構造と事業環境

国王を頂点とする統治により工業化を進める

国王に権力が集中する権威主義国家。それが逆に功を奏して、治安の良さや長期的な産業政策への取り組み、投資の素早い実行が可能となっている。農業とリン鉱石で構成された産業構造だったところ、この20年は工業化と輸出主導型産業の育成に費やしてきた。

港湾、高速道路、鉄道、電力、工業団地といったインフラに積極的に投資を行ってOECD加盟国並み水準を整え、自動車、自動車部品、航空部品、電機部品といった工業製品の製造を行う外資に輸出特区を用意して誘致し、EUや米国をはじめとした多くの国とFTA(自由貿易協定)を結び輸出を増加させた。グローバルなサプライチェーンに絡める工業国となるという目標が実りつつある。2030年にワールドカップが開催されることも決まり(スペイン、ポルトガルと共催)、インフラ投資もギアがかかる。

「欧州の工場」として躍進

スペインとはフェリーで1時間もかからず行き来ができ、フランスのル・アーブル港とモロッコのタンジェ港は陸路で4日の距離である。欧州と近いという地理的優位性を活かして、ワイヤーハーネスなどの自動車部品や縫製品・衣料といった軽工業製品を輸出してきた。近年はルノーやステランティスといった欧州自動車メーカーがモロッコに工場を開設し、欧州市場への輸出拠点としている。貿易摩擦により欧州や米国市場から締め出された中国のBYDなど電気自動車メーカーや部品メーカーは、欧州や米国とFTAを結んでいるモロッコから迂回輸出しようと進出を進める。

欧州の政治的混乱のたびに企業が製造拠点をモロッコに移す動きも見られ、モロッコはこの10年で「欧州の工場」として躍進した。欧州への電力輸出を見据え、再生可能エネルギーやグリーン水素といったエネルギーへの投資も集められている。

国営企業・公共事業と財閥による独占

国営企業と財閥、大企業は実質的に優遇を受けており、各産業でシェアが高い。民間企業や中小企業、スタートアップといった草の根の産業活動に対する金融支援や投資が十分でなく、規制や競争環境も平等とはいえない。経済規模に比してスタートアップの誕生やその投資への動きも鈍い。一方で、財閥や大企業の寡占は日本の大企業にとっては提携先を選びやすいともいえる。

輸出産業に重点を置くあまり国内向け産業とのギャップも生まれており、たとえばアフリカ最大規模となる乗用車生産台数を誇るものの、ルノーのモロッコ生産台数のうち9割は輸出されており、国内で販売しているのは5万台程度となる。国内新車市場も大きい南アフリカとは対照的である。

自動車や縫製・衣料の欧州への輸出港となっているタンジェ港

現地の代表的な企業

モロッコは世界最大のリン酸輸出国であり、これを支えるのがリン鉱石の採掘から加工、肥料の製造まで行う政府100%所有のOCPグループである。OCPは、農業や飼料、インフラといった関連事業を抱え、さらには海水淡水化、再生可能エネルギー、グリーンアンモニア、グリーン水素プロジェクトを積極的に推し進めている。アフリカ各国への肥料工場設立も進めており、モロッコ企業でもっとも「アフリカ進出」している企業といえる。

通信、金融、建設、不動産、製造業、農業、水産業といった他の主要産業も国有企業かロイヤルファミリーに関わる財閥が主要なプレーヤーであったり、株式を保有している。たとえば3大通信会社のうち、Maroc Telecomは政府、Orangeは財閥O Capital Group、Inwiは財閥Al Madaが出資する。Al Madaはモロッコを代表する銀行Attijariwafa Bankや、保険会社Wafa Assurance、国内最大手スーパーMarjane、セメントLafargeHolcimのモロッコ子会社にも出資する一大財閥である。他にもSanam Holdings、Saham Groupといった財閥が、製造業から流通小売まで傘下におさめている。

フランス企業は多く進出している。TotalEnergies、Engie、EDFはエネルギー分野で投資しており、ルノーとステランティスは自動車の組み立て生産を行う。航空産業ではAirbus、Safranが進出済みである。スペイン企業は農産物や水産物、食品、縫製での進出が多い。米国ではAptiv、Learといった自動車部品企業が進出している。

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日本企業の事例

モロッコの主要な輸出製品である自動車用ワイヤーハーネスにおいて、住友電工は8工場、矢崎総業は4工場、フジクラは2工場を稼働させ欧州に輸出を行っている。デンソー、ジェイテクト、日本精工、富士機工、三井金属アクト、ミツバ、関西ペイント、旭化成といった企業が、現地の自動車工場向けに供給する製造拠点を持つ。一方、日系自動車メーカーはモロッコで生産を行っておらず、中古車を含めて市場における日本車の存在感は薄い。

縫製・衣料品では、ユニクロ(ファーストリテイリング)がアフリカで初めてとなる委託工場をモロッコに設定した。YKKは2005年から事業を行っており、2023年には新工場の開設を発表している。モロッコの工場労働者の賃金は月300ドル程度であり、東欧の人件費に比して優位性がある。

モロッコにはこの5年で新たに12社の日本企業が進出し、日本企業のアフリカ進出拠点数で3位となった。三井物産は石炭火力発電、風力発電に投資するほか、現地の養鶏会社Zahar Holdingsへ出資している。丸善製茶は現地企業と合弁を設立し、日本から荒茶を輸出しモロッコで加工した上欧米の茶メーカー向けに輸出している。日本たばこは2024年に新工場を開設すると発表した。コンテナ物流のONEも同年モロッコに合弁会社を設立した。

日本はモロッコから、タコやまぐろ、寒天などの海産物や冷凍いちごなどを輸入している。

モロッコに進出しているすべての日本企業については、「アフリカビジネスに関わる日本企業リスト」で紹介しています。

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モロッコの事業機会

モロッコの乗用車生産台数はすでに南アフリカを超えており、2024年には合計生産台数でもアフリカのトップとなることが見込まれている。自動車関連事業にとっては、電気自動車やその部品も含めて、欧州需要向けの投資先としての重要度が高まる。

自動車産業以外でも、たとえば縫製・衣料品や食品などで、モロッコの地理的優位性やFTAを活用した欧州への輸出拠点になりうる。輸出特区を利用した製造の開始や現地企業への製造委託も可能である。

都市化が進み若い世代では欧州に近い消費行動や商品選択が生まれている。日本企業が得意なハイエンド製品や付加価値製品の販売機会があるほか、そういった製品を製造する現地メーカー向けへの資機材の販売のチャンスがある。財閥や大企業との協業が可能であり、それはモロッコに適した進出方法でもある。

欧州企業が強いものの、再生可能エネルギーやグリーン水素、インフラ投資や工業団地事業、海水淡水化ちったプロジェクトにおけるPPP(官民連携)に関わる可能性は日本企業にもある。

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