アフリカ視点のCOP27ー今回の成果とは

「損失と損害」と「公正なエネルギー移行パートナーシップ」

アフリカ視点のCOP27ー今回の成果とは

エジプトで開催されたCOP27(第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議)が閉幕しました。会期が1日延長されてまで、粘って最後に合意に達した「損失と損害(Loss and Damage)」が今回の目玉でした。

「損失と損害」

「損失と損害(Loss and Damage)」に関する基金設立の合意は、アフリカにとっては大きな成果でした。気候変動は、欧州などがリーダーシップをとり、世界で一丸になって地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を削減しようというものですが、これまでアフリカのような途上国の視点が十分に取り入れられていたとはいえないと思います。

アフリカからすると、気候変動というのは、「工業化の過程で温室効果ガスを排出して気候変動の原因を作ってきた先進国が、農業や食料供給の不調や災害といった気候変動による被害を、排出量が相対的に少ない途上国に与えている」のであり、「これから工業化を進めていこうとしている途上国に、自分たちはもう豊かになったからいいと、同じような過程をたどって豊かになる恩恵を受けることに足かせをはめるもの」とも言えます。

「損失と損害(Loss and Damage)」基金とは、排出量の多い先進国が、気候変動への影響に脆弱な途上国が受けている損失と損害を回避、最小化、対処するための補償を行うためのものです。今回のCOP27では、具体的な資金源や運用までは決められませんでしたが、議題にあがり基金設立合意に至ったのは、アフリカにとっては成果でした。

「公正なエネルギー移行」

アフリカは気候変動の影響を受けやすいだけでなく、石油や石炭の原産国も多いため、脱炭素の流れが進むほど、国家を支える産業が壊滅し、国家財政の悪化や雇用の喪失が発生します。産業・エネルギー構造の転換のための投資という重い負担がのしかかります。

たとえば石炭が豊富な南アフリカは、石炭火力発電により安い電力を実現し、アフリカ随一といえる工業国へと発展してきました。ところが脱炭素の潮流により、すでに新規の火力発電案件は中止に追い込まれてしまっています。石炭産業だけで10万人が働くとされています。国の基盤産業である石油化学産業も、事業をまるごと作り変えるような変革を求められています。

このような状況下、南アフリカは昨年のCOP26で「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP、Just energy transition partnership)」を提唱しました。誰かの犠牲の上でエネルギー移行を進めるのは公正でないとして、気候変動対策により雇用を失ったり負担が重い国に対する資金の呼び水として公的資金を拠出し、それにより民間資金を呼び込んで再生エネルギーへの転換を進めようとするものです。英国、米国、ドイツ、フランス、EUといったInternational Partners Group(IPG)との間で締結され、85億ドルの拠出が合意されました。

今回のCOP27の開催にあわせて、フランスとドイツが85億ドルの一部として6億ユーロの融資を約束し、ようやく実際に資金が提供される段階へと移行しました。今回のCOP27で、南アフリカはさらに一歩進めて、5年間で980億ドルの拠出を行う「公正なエネルギー移行のための投資計画(JETP-IP、Just energy transition partnership investment plan)」を提案し、IPGによって承認されました。

もっとも、石炭や石油化学を経済の基盤として発展してきた南アフリカのエネルギー移行は、980億ドルでも足りないと試算されていますが、アフリカにとってのCOP27という文脈では、この承認がもうひとつの成果でした。

執筆者: 梅本優香里

アフリカビジネスパートナーズ代表パートナー

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