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アフリカビジネスの今

なぜコロナはアフリカで「意外」に広まらないのか?

弱者の経験が生きたアフリカ

更新日:2020年06月09日

カテゴリー:論考・コラム

(この記事は、2020年5月5日にnewspicksに寄稿した記事の再掲です)

とうとう始まった-。

3月13日の金曜日、筆者が打ち合わせを終えてナイロビのオフィスに戻ると、ケニアで最初の感染者の確認が発表されていた。感染者が見つかることは覚悟していたものの、その後の展開は予想外だった。

週明けまでの数日のうちに、全国の学校の休校やバーなど夜間営業の停止が決まった。

それからたった1週間後には、空港の完全封鎖が決まった。2週間後には夜間外出禁止が出され、3週間後の4月6日にはナイロビ首都圏の都市封鎖が始まった。

都市封鎖の時点でのケニアの感染者数は16人。このような、まだ感染者が少ないうちからの怒涛のロックダウンが、アフリカのほとんどの国で行われた。


ロックダウンを即時判断

アフリカで最初の感染者が見つかったのは2月14日、エジプトだった。3月に入って、他のアフリカ各国でも、欧州やドバイからの旅行者や帰国者から感染者が見つかり始める。

それから1カ月の間に、アフリカ55カ国中50カ国が空港を封鎖して全ての旅客機を止め、そのうちの多くは都市の交通封鎖と外出禁止、つまりロックダウンに踏み切っている。

3月31日時点のアフリカ全体の感染者数は5786人、百万人あたり4.5人にすぎなかったことを考えると、アフリカの国々の感染対応は非常に早かったと言える。その経緯はこちらにも記録している。

現在(5月2日時点)の感染者数は4万2772人まで増えた。百万人あたりでは34人。最も感染者が多い南アフリカの百万人あたりの感染者数が、日本と同程度の110人である。

             アフリカの感染者が多い国の感染状況(2020年5月2日時点)
              (※最新の感染状況はこちらで随時更新しています)

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出所はこちらを参照

感染者が2倍になるのにかかる日数(DT)は14日と、2週間で2倍になる比較的緩やかなペースで感染が拡大。医療崩壊の結果指標となる致死率も、いまのところアフリカ全体で4%と、世界平均よりも低い数値だ。

国よって状況の良し悪しは異なるが、ここまではおおむね、アフリカはこのコロナ禍をうまく管理してきたといえる。アフリカの全ての国のデータは、こちらに掲載している。

感染者が現在、アフリカ各国でどのように増えているか、視覚的に見てみよう。累積感染者数のグラフを見ると、南アフリカ、エジプト、アルジェリア、モロッコの感染者の多い4カ国は、拡大スピードが緩やかになってきているのが見て取れる。

チュニジア、ブルキナファソ、モーリシャスは、増え方が一定となっており、ピークアウトも近いかもしれない。

(※最新の感染状況はこちらで随時更新しています)
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準備は整っていた

なぜアフリカは、世界の危惧とは裏腹に、ここまで新型コロナの感染者数を抑え込めているのか。その理由は、これまでアフリカ各国が体験してきた、感染症対応の経験にある。

アフリカは、2014年に西アフリカ3カ国で、2018年からはコンゴ民主共和国で、エボラ出血熱のパンデミックを経験している。

この経験を通じて、感染症の拡大を水際で防ぐためのオペレーションや、患者の隔離や取り扱いの方法についてのプロトコルが存在している。

常日頃から結核やコレラ、ポリオといった他の疫病にも対応しているため、感染の流行に即時に対応し、限られた物資で拡大を抑えるという点では、アフリカはむしろ準備が整っている。

アフリカの多くの国は、先進国とは違い、医療を含めた自国の対応力への過信など持っていない。

感染が気づかぬうちに爆発すれば医療が崩壊することは目に見えているからこそ、隠れた感染者を見つけ出すために、4月以降は多くの国で人口密集地域での集中検査やヘルスワーカーによる家庭訪問を行っている。

南アフリカはこの1週間で7万件の検査を行った。これは、日本が同じ1週間で行った検査数の2倍だ。人口百万人あたりの検査数は、南アフリカ、ガーナ、ジブチ、チュニジアなど8カ国では日本より多い数を行っている。

南アフリカでは、エイズウイルス(HIV)や結核の大流行に対応して立ち上げた200以上の設備を使ってコロナウイルスの検査数を増やしている。

アフリカ11カ国では、これまでの疾病対策から、伝統的な治療師や村長といった人たち約6000人を組織化して、携帯電話で患者の発生を報告するシステムが存在しており、今回もこれが使われている。

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スーパーの入り口では、検温の上、全員にラテックスの使い捨て手袋が配られている(撮影:梅本優香里)


ロックダウンは順調に

また、アフリカの政治家というと、正しい状況認識ができず、とるべき対策もとれていないというイメージを抱く人が多いようだが、こと今回に関しては、その対応は意外なほど納得性が高く、かつ迅速だ。

アフリカでは、決断ができないリーダーは支持されない。国でも企業や家族においても、人の上に立つ者はメンバーを守らなければならないのが決まりである。

そのため今回も多くの国で、大統領は節目節目で国民の前に立ち、なぜロックダウンが必要なのかを説明し、人々の暮らしが厳しくなることへの理解と、それを緩和するための政策を語りかけている。

複数の国では、大統領や閣僚が早々と給与の一部返上を決め、法人税や所得税、VAT(付加価値税、日本の消費税に該当)の減税の他、金融機関による融資期間の延長や返済猶予、貧しい人への現金給付や食料パッケージの提供を決めている。

ケニアでは、ミュージシャンや俳優、アーティストがライブハウスが閉まっている期間中にもTVやラジオを使って引き続き活動が続けられるように、資金を用意し収入保証を行うことを発表している。

南アフリカの全国ロックダウンは、オフィスは全閉鎖、飲食店のデリバリーも許されず、運動のための外出も禁止、スーパーに行っても必需品ではない衣類や日用品は購入できないという厳しいものだった。

酒とたばこの販売も禁止されている。その厳しさは移動減少率で75%まで人々の移動が減少したことにも表れている。

最初の感染者が見つかった2日後に対策本部が立てられたナイジェリアでは、2000万人が住んでいるといわれる最大都市ラゴスなどで、すでに5週間にわたってロックダウンを続けている。

多くの住人は、個人事業主として路上や対面で商売を行ってきたので、ロックダウンで収入は完全に絶たれてしまった。


治安が「良くなった」地域も

これだけ厳しいロックダウンを行えば、暴動のひとつやふたつ起こってもおかしくないが、いまのところはまだ治安を大きく揺るがすような事態にはなっていない。

むしろ、治安が良くなっているという報告もある。

南アフリカでは、同年同時期比で殺人が72%、強姦が87%、殺人、強盗、カージャックも7割程度の減少となった。ギャングのリーダーたちが停戦を呼びかけ、感染や収入減を不安に思う構成員に6月までの生活費を渡したため、殺人件数が前例ないほど低下したと報道されている。

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ケニアのスラムと呼ばれる人口密集地に政治家が臨時に設置した手洗い場。スワヒリ語で「ここで手を洗おう。ともにコロナと戦おう」と書かれている。(撮影:梅本優香里)

その結果として、コロナ禍以降の国民の政権への評価は低くはない。アフリカビジネスパートナーズが4月12~14日のロックダウンの最中に実施したオンライン調査によると、ケニアでは81%、ナイジェリアでは68%が「政府の感染対策はいまのところうまくいっている」と評価している。

こういった国難が起こると、急に団結力が高まるのもいつものことだ。南アフリカでは、アパルトヘイト廃止以来の国民の結束が見られ、日頃は好きなスポーツひとつでも意見が割れる多様な民族の人たちが、一様に大統領にエールを送っているという。

一方で、この事態でも、リーダーが適切な羅針盤を示せず、感染者の増加を管理できていない国があるのも事実だ。また、もともと不安定な政治である国や、政権が代わったばかりの国は、求心力が発揮されづらく、感染者が増える傾向が見られている。

うまく管理できている国も、非常事態による一種の緊張感が保たれていることで、なんとか感染拡大を収められている面もあるだろう。

これから5月から6月にかけて、アフリカ各国はロックダウンを緩めるフェーズに入る。

南アフリカは4月30日から段階的解除を開始した。これまでのロックダウンの状態をレベル5、ほぼ日常生活に戻る状態をレベル1と設定し、感染状況に応じて緩めていくと発表している。

アフリカの大半の国は、行動規制を敷いている間に時間を稼ぎ、感染者の追跡や検査、医療や社会体制を整えることができた。これからは、感染者数を一定数に保ちながら、経済の回復を図っていく。非常事態から日常に移行したときに感染の爆発や治安の悪化が起こらないように、注視するフェーズに入っている。


「弱者の経験」がいきるとき

コロナ禍は、アフリカ各国の「古い」とされてきた商習慣が、見直されるきっかけにもなろうとしている。

アフリカの現地企業は、大企業から道端のパパ・ママショップまで、現金や在庫を多く抱えていることが多い。資金の流動性が低く確実な物流が期待できないので、そうしておかないと事業継続性が保てないからだ。

先進国企業では、効率化の名の下に、できるだけ余剰キャッシュや在庫を持たない経営がよしとされてきた。アフリカのやり方は、効率的でない分、不測の事態には対応できる。

ロックダウン中にケニアとナイジェリアのメーカーや流通各社にインタビューを行ったところ、空港が閉まり輸入が遅延したり、ロックダウンで流通が滞っているというのに、営業を続けている企業が多かった。

また、アフリカだからこそ発達したテクノロジーも、コロナ禍でその有用性が見直されている。

15年前のケニアで、マイクロファイナンスや現金給付といった援助を目的に、必要な個人に直接、効率的に現金が行き渡る方法として、モバイルマネー「M-pesa」が始まった。

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スラムのなかにもあるM-pesaショップ(撮影:梅本優香里)

住所や口座を使って届けるのが難しい相手にも、誰にでも現金を届けられるように編み出されたテクノロジーが、いまでは全国民が使うフィンテックサービスになっている。

ケニア政府が日本のように国民に現金給付を行うことがあれば、このM-pesaが使えるだろう。現にマラウイでは、100万人にモバイルマネーで現金給付を行うと発表されている。

教育においては、広い国土で一定の教育を提供するのが難しいため、オンライン授業や生徒へのラップトップの配布は何年も前から取り組まれてきた。そのため、すでに遠隔で教育を行う土壌もある。

さらに、アフリカから先進国に転用されるテクノロジーもある。

ルワンダやガーナで血液や医療用品をドローンで配送しているZipline社は、アフリカで培った仕組みをコロナ禍にある米国に導入することを検討しているという。ドローンで医療機器を各家庭に配り、遠隔医療を行うもくろみだ。

いままでなら「アフリカでもあるまいし」と半ば見下されていたような方法が、世界レベルで役に立つときがきてもおかしくない。

アフリカの現地企業は、有事をいかして事業を生み出している。オンラインコマースやドローン事業を行う企業はアクセルを踏み、スーパーにいくと、オンラインデリバリーを行う各社のバイクがずらりと並ぶ。

Netflixはアフリカで会員を増やしているが、地場の有料テレビやオンラインコンテンツ会社も負けてはいない。値下げやコンテンツの増強を図っている。消毒液やマスク、人工呼吸器や医療者用PPEは、現地のメーカーが増産や新たな製造を続々と始めている。

実際、ケニアでは消毒液やマスクの品不足はすぐに解消された。

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さまざまなマスクが売られている。公共の場ではマスク着用が義務となっている国が多い(撮影:梅本優香里)


不確実性のなかを生きるレッスン

日本に住んでいると、明日は今日と同じようにやってきて、変化は緩やかに起こるという前提認識を持つようになる。

だからこそ、今回の新型コロナウイルスによるインパクトは、日本や先進国の人々にとっては価値観を揺るがすような大きな出来事になった。

しかしアフリカでは、予想外の出来事が起こり、急激な変化と、解決法がない状態に翻弄されるというのは、珍しいことではない。

ビジネス上の環境の変化や浮き沈みはいつでもあり得ると捉える心構えがある。

周囲の大企業の社長からパパ・ママショップのオーナーまで、今回の事態を大変な試練と受け止め、ぼやきながらも、じたばたせずに、状況が改善するのを待ち、いつものようにしのいでいる。

本当は誰もが不確実性のなかに生き、不透明な環境下で事業を行っているのだが、このことが先進国では実感しづらい。

コロナ禍以降、世界がアフリカになったような感覚がある。いまこそ、不確定要素が多いなかでビジネスを進めるための意思決定のあり方や、制約のあるなかで新しいものを生み出す感覚を養う好機だと感じている。

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スーパーから食品デリバリーを行うために待機しているバイク。Jumia FoodやGlovoといったスタートアップが売上を伸ばしている(撮影:梅本優香里)

先述のケニアとナイジェリアでの調査では、収入の半分以上をすでに失った人が、ケニアでは59%、ナイジェリアでは60%もいるというのに、今回のコロナ禍が5月になれば「良くなる・解決する」と回答した人が、両国とも77%に上った。

もちろん願望も含まれていると想定されるが、不確実性の高いなかで変化を受け止め、変えられない状況を受容し、希望的な見通しを維持してサバイブしてきた人々のレジリエンスは強い。

こうしたアフリカの人たちのたくましさが、今回のコロナ禍では存分にいかされている。

※引用される場合には、「アフリカビジネスパートナーズ」との出所の表記と引用におけるルールの遵守をお願いいたします。

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